「かわいいね」「かわいいね」と言い合うことは決して無駄ではない。むしろ無限の生きるエネルギーをもたらしてくれさえする。
小学生低学年、元気に外を駆け回るタイプの子どもではなかった私は、校舎の陰で友達と折り紙交換をするのが休み時間の楽しみであった。
「うわ〜可愛いねぇ…」
「これとこれ交換しよう」
「いいよ、こっちの花柄もおまけで付けてあげる」
25年が経った今、同じ趣味の友達は身近にいない。ラーメンと肉のことしか考えていない大男と、バスとゴミ収集車のことしか考えていない小男と暮らしている。
だが私は、可憐な花柄を愛する7歳の頃と、なんら変わってはいないのだ。
かわいいものを愛で合うこと、それはいつだって尊いのである…
最近、隙あらば皿のことばかり考えている。
可愛い皿と可愛い鍋。あちこちのオンラインショップを随時チェックし、「うわ〜これ可愛い〜!ほしい〜ッ!ここにマフィンのせたい〜ッ!」みたいな妄想と一人会話を心の中でやっている。
時々ごくまれにポチッとするが、しかし空間的にも金銭的にも基本はウィンドウショッピングとなる、それが皿と鍋の宿命。
なぜこんなにも皿愛が高まっているのかといえば、お菓子づくりに夢中だからである。
ここで勝手に私の2020年上半期を振り返らせていただくと、久々に趣味が爆発的に増えている。
年初はレトロ喫茶店に開眼し、たまの一人時間に巡っていこうッ!と喫茶店専用のインスタアカウントまで始動していた。
のめり込むと一直線な私は、夜な夜な行きたいレトロ喫茶店のリストまで作って妄想に耽っていた。究極の暇人である。
だがカフェしかない下町で喫茶店への思慕を募らせている間にも、魔の手は襲いかかってきた。コロナである。
外出自粛と前後して、私は電子レンジでクッキーを焼き始め、矢も盾もたまらずオーブンを入手し、鬼のようにお菓子を焼き始めた。
もとより子育て中で喫茶店はなかなか行けないし、その雰囲気は大好きだけどタバコの煙はやっぱり苦手。むしろお菓子づくりの方が趣味としてぴったりとハマるではないか。
そして焼きあがったお菓子は、皿に乗せる。どうしたって乗せる。かわいいケーキがより映える、かわいいお皿がほしくなるのは当然の帰結ではないだろうか?
「ねえねえ、このお皿めちゃくちゃ可愛いの、ちょっと見て…」
ソファーで横たわる夫に、iPhone片手に話しかける行為を数回繰り返したときである。
「もう皿の話はやめてくれーッ!」
夫は頭を抱えてこう言った。
「僕はもう皿は見ないッ!好きにすればいい!ほしいものはなんでも勝手に買ってくれッ!」
そして食べログとウーバーイーツ、面白まとめサイトの世界に戻っていった。前から何度も書いているが、我々には共通の趣味はない。
「ねえこれ可愛くない…?!?!」
のベストアンサーは「ほんとだ、可愛いねえ」である。決まっている。
だが夫はすぐこう言って会話を終わらせる。
「買えばいいじゃん」
お菓子作りに関していえば、いくらでも好きなレシピで順番に作っていけばいい。だが皿は違う。一枚一枚にお金だってかかるし、まあ私が欲しいものは高価なものではないのだが、なんといっても保管に場所を取る。「腹減った→食べる」みたいな勢いで「かわいい→買う」わけにはいかないのだ。
「最近ayakoさんは皿のことばっか考えてるよね」
夫は呆れ薄ら笑っていた。
「そんなにお皿ばっか気にしてどうするの?その上に何を乗せるかが重要なのに…」
何を食べるか問題と24時間真剣に向き合っている夫からすると、笑い者のようである。
母と妹とのグループラインにも、ことあるごとに皿の写真を載せていた。料理写真もお菓子写真も、すべては皿を美しく見せるためのものである。ほしいティーセット、新しく買ったスープ皿、せっせと投稿する。
「素敵だね〜」とか「おいしそう!」などと優しさで返事をくれていた母も、とうとう沈黙するようになった。誰からも返事が来ず、完全に独り言と化している。いいねの機能がない分、ツイッターより孤独だ。既読のマークがわびしい。
挙句、妹などこんな暴言をはいてきた。
「毎日毎日皿の写真ばっかり送りやがって」
話は突然変わるようであるが、先日、夫が珍しく雑誌を読んでいた。ラーメン二郎持ち帰りの待ち時間を潰すために買ったらしい。
「日経トレンディ」。男の黒い家電とかグルメとか投資とか実用的なことで埋め尽くされた、私から最も縁遠い情報誌である。
「こんな家電あるんだって!」とか「見てこのお肉おいしそう」などという言葉に、私は完璧すぎる生返事で対応していた。
「へ〜」
それ以外に声がでない。
その瞬間、私はすべてを理解した。
もし、夫が宅麺を注文するとき、「このつけ麺おいしそうだと思うんだけどどうかな?ここのチャーシューって分厚いよねぇ」などといちいち言ってきたらどうであろう。
地獄である。
インターネットのある時代を生きることができてよかった。心からそう思う。
なんか死に際の台詞みたいになってしまったが、全くそんなことはない。むしろ物欲をみなぎらせてバリバリに生きている。
インターネット、あなたのおかげで私は大切な人たちに嫌われずに暮らせるのです。
インスタでもツイッターでも、好きなだけ自己満足テーブルフォトを載せればいい。細かすぎる鍋の理想について、ブログで思い切り熱く語ればいい(読者の皆さん、ついてきてくれ…)
それだけではない。
「あ〜このポットめちゃくちゃ可愛くない!?ほしい!でも置く場所ないしな〜でもかわいい!…待って、お揃いのティーカップまであるッ」みたいなことをできる素晴らしいSNSがあったのだ。
楽天ルームである。
「なんだありゃ」と思いつつミーハーなのでアカウントだけ作っていたけれど、まったく活用していなかった(失礼)
それが今、爆速で更新されている。
ご覧いただきたい、私のページである。
こうやって、愛するものたちをひたすらコメントしながら並べる。これ買ったの!という自己満足な報告もいい。好みが似た人をフォローしたり、いいね(ハート)をつけたり、楽天の商品なので実際に購入することもできる。ああ、まさに夢のような空間。
友達と集う校舎の陰はもうない。だが私は同じ好みの見知らぬ同士、美しい皿を楽天ROOMで愛で合い、ときにメルカリで交換する。
折り紙が皿になった。それだけなのである。
▽よかったら覗いてみてね▽
さあ、今日も好きなものへの愛を思い切り語るぞー!
Sweet+++ tea time
ayako
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