毎日の名もなき料理を肯定してくれる『バスクの修道女 日々の献立』

読書と料理が日々の楽しみである。

などと書くといかにも健全で素晴らしい趣味のような気がするが、もはや作るためというより読むための料理本、分厚いレシピ本のページをめくり妄想しては恍惚とする、変態の域に突入した2023年秋の話である。

『バスクの修道女 日々の献立』という分厚く美しい一冊の本に出会う

カバー付きで嬉しかった

2021年の3月に出版された本で、長いことAmazonのほしい物リストに入れて時折覗いては気にかけていたものを、とうとう購入してみた。

届くまで楽しみすぎて、配達完了になるや否や郵便受けに取りに行き、矢も盾もたまらず玄関前でページを捲った私は稲妻に撃たれた。もちろん比喩である。

最高に好みど真ん中の本だった。

3,000円弱するのですがむしろ、たったそれだけでこの美しい本を手にすることができるという幸運と奇跡に、感謝しかない。

中身はこんな感じで、基本文字だけ、何百ものレシピが季節ごとに淡々と綴られている。その書き方がまた素晴らしく、過不足なくすっきりとした説明は詩のように心に残り、作ってみたくなるし味を想像するのもとびきり楽しい。

一つ一つのレシピ名もシンプルながら秀逸で、「大切なじゃがいも」「素朴なじゃがいも」「フライドポテトの卵落とし」「バターの三日月」「いちごのオレンジシロップ漬け」「焼きミルク」「ヘーゼルナッツのクリームクッキー」……まるで可愛い詩集を眺めているよう!

想像力を刺激し、読む人の心を躍らせる料理名に脱帽するしかない。

二箇所にまとめて差し込まれているカラー写真の数ページは、いずれも目の醒めるような美しさで、眼福である。食器好きにはたまらない。

*・*・*

 

話は変わるようであるが、詩人の谷川俊太郎さんは『ひとら暮らし』というエッセイ集の中で、自身のお気に入りの本についてこう書いている。

"Radios of the Baby Boom Era" という本がある。アメリカで出版されて日本で買うと一冊六千円もする。六冊セットになっていて、一九四六年から一九六〇年までの間にアメリカで売られたラジオが、メーカー別に写真入りで載っている。そんな本を毎晩ベッドの中で繰り返し眺めているのである。私はいったい何をしてるんだろう。

思わずクスクスと笑いが漏れた一節であるが、自分に笑う資格など1ミリもないことにはたと気づく。

「また同じような本を読んでるね……」

夫から呆れられながら、365日しかない一年で作り切れるはずのないレシピの数々をひたすらに眺め読み悦に入りニンマリしている。私はいったい何をしてるんだろう。

スペインの修道女の献立が、日々の名もなき料理を肯定してくれる

最初の数ページには修道女たちの1日の生活、朝昼夕食のスタイルなどが紹介されている。

祈りと労働を基本とする、地味で質素で、基本的には修道院の敷地から出ない生活。縁遠いような気がするが、そこには四季への寄り添いがあり、忙しい日を凌ぐ食事があれば祝いの日を楽しむ食卓がある。それは私たちの日々の生活と変わりない事に気づく。

「修道女の毎日のご飯がお手本」というコーナーに挙げられている10の項目がとてもわかりやすい。

  1. 慎ましやか、経済的、あるもの、予算内で作る
  2. 簡単、時間のかからない料理
  3. 軽くて体に優しい
  4. 旬の素材、栄養バランス、野菜たっぷりを意識する
  5. 一皿目、二皿目、デザート(おもに果物)の献立を基準にする
  6. 時間のあるときはデザートを手作りする
  7. 季節の保存食を仕込み、残り物を工夫する
  8. 洋食のお手本であり、スペイン・バスクの家庭料理のお手本
  9. 代々伝わってきた知恵を取り入れる
  10. 愛情を込めて作る

どこかロマンチックなレシピでありながら、その内容はとても現実的で、子育て中のバタバタな夕方でも作れるものばかり。

*・*・*

 

一皿目はいろんな野菜を茹でたものだったり素朴な野菜スープだったり、二皿目も簡単な肉料理が多く、時にハムとチーズを挟むサンドイッチだったりする。

和食にすれば、具沢山お味噌汁と一品と果物というところ。まさに日々の食卓にふさわしいスタイル!

三皿目のデザートは「キウイフルーツとヨーグルト」「ナッツとドライフルーツ」「熟した柿」などという日も多く、普段の名もなき料理とも言えない食事たちだわ!というものがきちんとお澄ましして三皿目の「POSTRE デザート」の項目におさまっているのは、新鮮で他のレシピ本にはない現実への肯定感がある。

もちろん季節の果物を使った素朴なケーキやタルト、クッキーの類も山と載っているので、とにかく現実のレシピ集としても楽しさしかない。

素朴で簡単な修道女レシピを日々の食卓で再現してみた

少ない材料で作れる気軽なレシピばかりなので、「秋の献立」からさっそくいろいろ作ってみた。読むだけでも楽しいし、作ると更に楽しい。

肉団子のトマト煮込み(244ページ)

肉団子を揚げてから煮込むのが新鮮だった。ハンバーグを作るより全然簡単で確実にまた作る。

隣のガラスボウルはかぼちゃのクリームスープ(230ページ)。皮ごと茹でてスープにしてしまうのが、無駄がなくて手間も少なく嬉しかった!

肉団子に添えてるのはルッコラと柿のサラダ。いろんな一皿目のレシピに載っているシンプルなドレッシングの配分を真似した。

オレンジと生クリーム(217ページ)

輪切りにしたオレンジに生クリームとくるみを添えて、蜂蜜をかけていただくデザート。こんなオレンジの楽しみ方があるなんて!

三皿目のデザートで紹介されていたのを、週末の朝食に作ってみた。

とびきり美味しかったのは言うまでもない。下手なケーキを食べるより、ずっと贅沢なスイーツになる……

豚肉とドライあんずの煮込み(232ページ)

ドライあんずは近所のスーパーになかったので、プルーンに替えて作ってみた。驚くほど簡単なのに、ちょっと贅沢な気持ちになれるお肉レシピ。

上に見切れているのはマッシュルームのサラダ(232ページ)、左の一皿はかぼちゃのクリームスープ(230ページ)。

洋梨のケーキ(234ページ)

スポンジの中に香り豊かな洋梨をたっぷり詰めた素朴なケーキです。

という説明がすべての、思い立ったらすぐに焼ける家庭のおやつ。近所のスーパーに洋梨が並んでいたので、作ってみた!

オーブンの前で焼き上がりを待つ楽しみがあれば、

ケーキの粗熱が冷めるのを待つ楽しみがある。

焼き立てが特に美味しい。

*・*・*

 

そのほかにも鶏肉のハニーレモンは好評すぎてもう二回作ったし一昨日はジュリエンヌスープを、昨夜は鶏手羽元のじゃがいもワイン煮を野菜を変えて作ってみた(じゃがいもがなかったので)

優しい家庭の洋食という感じで、背伸びしすぎずちょっとレストラン気分も味わえるのが嬉しい。

というわけで今夜も寝かしつけ後、粛々とレシピを読み進め、妄想に浸りたいと思う。

ちなみに今日の晩ごはんは具沢山お味噌汁と焼き魚である(和食 is 最高)

Sweet+++ tea time
ayako

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