日々は波の中にある。
子育て中に限らず、人生を通じてかもしれない。
穏やかな陽の光を受けてしみじみと幸せを感じる窓辺のような日があれば、台風の中で吹き飛ばされそうな老朽化した看板のような日がある。
その日の私は、看板だった。と言ってももちろん、空調の整った屋内アウトレットの、綺麗にメンテナンスされたそれではない。暴風雨どころか猛吹雪に晒され、寂れた温泉街で文字も消えかかったやつである。
「もう絶体絶命だ…」
土曜日だった。本来なら夫という増員があるため多少はイージーモード、運が良ければ一人でゆっくりお風呂に入れるかも?とすら思っていた救いの日。
あろうことが夫は頭痛でダウンした。千年に一度くらいのことである。そんな日に限って、〇歳も三歳も荒れていた。
もはや記憶にないが、とにかく一人で奮闘、夜のお風呂はギャン泣きのBGMの中、湯船では鬼のように水風船を作り、脱衣所では裸でひたすら奔走、ツルツルの二人に保湿クリームを塗り服を着せ終えたとき、自分の体はバリバリになっていた。まさに錆びた看板である。
「もう絶体絶命だ…」
私はスマホを手に取り、出前館のアプリを起動した。最近ではめったにウーバーも出前もしない。だが今こそ使うべき瞬間だと、本能が察知していた。私が今日という日を生き延びるのに必要なのはただひとつ…
寿司である。
子育て中、寿司以上に私を慰め癒し、鼓舞してくれるものを知らない。
それはナマモノNGな妊娠中、10ヶ月近く我慢し続け、やっと解禁された最高のご馳走であると同時に、片手でつまめるという子育て中に最適な形状をしているのである。しかも、冷たくなったからといって惨めな気持ちになることがない。パーフェクトすぎて震える。
だがその日は雨であった。週末の夕食時である。これが何を意味するかわかるだろうか。
出前館の「寿司」カテゴリー、次々と並ぶ「受付休止中」に息を呑む。開店している数件を祈る思いでタップしては、絶望的な気持ちに襲われた。
待ち時間:180分
私は、絶頂の空腹である。風呂から出て疲れ切っている。今すぐに食べたい。待てても三十分、まだ三歳と〇歳のごはん授乳歯磨き寝かしつけと夜のタスクは山積みだ。決断しなければならない。
長男は入浴後のタブレットタイム、次男は珍しく眠っていた。これは、いける。
作ろう、自分のためのご馳走を。
使おう、とっておきの黒毛和牛を。
即席で作った「ほうれん草と牛肉のクリーム煮」がとびきり美味しかった
というわけで、切羽詰まった休日夜、冷蔵庫のありもので作った大ヒットメニューを紹介したい。頭痛から復活した夫も歓喜し、数日に渡って残り物の取り合いとなった。
材料
牛肉:300g
玉ねぎ:小1玉
しめじ:2パック
ほうれん草:1束
生クリーム:2パック
牛乳:適量
小麦粉:適量
味付けは塩胡椒だけ!
ちなみに冷蔵庫の残り野菜を消化するために誕生したメニューである。生クリームを二パックなんてカロリー的にも使えるわけないッ!と思うだろうが単に賞味期限が切れていたので放り込んだのである。滅多に食卓に登場しない牛肉は、当然ながらふるさと納税の返礼品である。
大量に出来上がるので、全部半量にしてもちょうど良いと思う。
作り方
1。牛肉と玉ねぎを塩胡椒で炒める
2。小麦粉をふりかけて絡める
3。しめじも加えて炒める
4。生クリームと牛乳を入れる
5。最後にほうれん草も入れる
おしまい。
塩胡椒はちょこちょこかけて、最後に味見して調整してください。炒める時の油はあればバター、なければ植物油で。
まあ確実に高カロリーだけどいいの、ご褒美ごはんだから。
最高に美味しいので。
間もなく目覚めた次男をバウンサーで揺らしながら(片足で失礼)、こぼし続ける長男のご飯を手伝いながら(片手で失礼)、感激していただいた。
「ああ、私ってなんて料理がうまいの…」
高カロリーで美味しい材料を組み合わせれば、美味しいものができるに決まっている。しかしいつだって自分を称賛していくスタイルは崩さない。
ちなみにほうれん草は最も好きな野菜で、冷蔵庫に入っているだけで幸せな気持ちになれる。
Sweet+++ tea time
ayako
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