この夏、ひとつの大きな決断をした。
炊飯器の買い替えである。
夫が一人暮らしの頃から受け継がれ、10年近く活躍してきた我が家の炊飯器がとうとう壊れてしまった。壊れたというよりフタが閉まらなくなった。閉まらなくなったといっても10回中2回くらいは閉まる。だが苦労して閉めても、炊いている途中にパカッと開いていた。そんな姿すら間抜けで愛おしかったが、一般にはこれを壊れたと言うだろう。
炊飯器か、土鍋か。
実家ではお鍋でお米を炊いていたし、その方が早くて美味しいのも事実と思う。だが私は今「丁寧に暮らす主婦」というよりも「猛獣使い」としての度合いが高い。はるかに高い。
17キロの小さな怪獣が暴れている中で、土鍋をうまく扱えるだろうか。公園にでかける直前に急いでスイッチオン、みたいなことができるのは炊飯器。やはり今はあなただろう。
こうして炊飯器探しの旅が始まった。それは冒険で、未知だった。いろいろあった。ありすぎた。とにかく安価な一人暮らしスタート用みたいなもの(我が家のはこれ)から、一気に5号炊ける家族用、保温機能が優れているハイテク系から美味しさを追求した高価格系まで。
10万円以上する炊飯器なんてあるんだ…
衝撃だった。
貴族ではないか。
だが恐ろしいことに、スクロールしながら7万とか12万といった貴族の炊飯器を眺めていると、感覚が麻痺してきた。
毎日のように食べる米。そこにもの凄い美味しさの違いが出ているとすれば、どうだろう。一度買った炊飯器は、また10年くらい使うだろう。
今こそ、奮発するべき瞬間ではないのか。
こうして我が家にやってきたのが、バルミューダの高級炊飯器である。
高級、といっても4万円。12万円の貴族炊飯器からすればかわいいものであろう。だが我が家にとっては賭けであり決断であり革命だった。炊けるのは3号でしかも保温機能がない。量でも機能でもなく、質で勝負するバルミューダ。あとはもう絶対にお米が美味しくなくてはならないという背水の陣的炊飯器である。
「完全に見た目のデザインじゃん…」
夫はニヒルな笑みを浮かべていた。
弁明するようであるが、もちろんデザインだけではない。
外釜と内釜の二つがあり、外釜にも水を入れる。この二重の釜と蒸気の力によって優しく加熱し、土鍋ごはんを超える美味しさを実現しているという。
期待しかない。
私たちは、物事の価値というものを、どこまで正確に判断できるのだろう。どこまで率直に感じられるのだろう。
心のままに何かを実感するには、あまりにも情報を持ち過ぎている。現代人の悲しき宿命である。
炊き立ての白米が盛られた一杯のお茶碗を前に、我々は緊張していた。箸は震え、唾を飲む音が狭いリビングに響き渡りそうである。
高級炊飯器バルミューダで炊いた、はじめての白米。その味は如何なるものなのか。
一口、二口と食べた我々は目を見合わせた。
「美味しい…」
「めちゃくちゃ美味しい…」
「なんていうかこう…芯が立ってる!」
「まさにそれ!」
さすがはバルミューダ!!!!と歓声をあげてこのブログを締めくくりたいところであるが、この感激の台詞には補足が必要である。
「美味しい(気がする)…」
「めちゃくちゃ美味しい(感じがする)…」
「なんていうかこう…芯が立ってる(に決まってる)!」
「まさにそれ(じゃなきゃ困る)!」
お米。そのシンプルな佇まいの、生まれてこの方いつだって食卓にある食材の、味の違い。純粋にその滋味を感じるには、私たちはあまりに重いものを背負い過ぎていた。
4万円。
一世一代の買い物。
美味しくなければならない。何がなんでも。
さて、我が家には、貨幣経済の概念から自由な人物がいる。
この世に生まれて二年、彼の中では外国の高級知育玩具と近所のパン屋でもらえるレシート、洋服に付いているタグが同価値である。いや、むしろレシートやタグの方が上位だろう。
お金の単位も価値も知らず、新しい炊飯器が導入されたこともそれが約4万円ということも、何も知らない。加えての偏食である。多くの子どもがそうであるように、基本的に好きなもの、美味しいと思うものしか食べない。自分の欲求に恐ろしく素直なのだ。
そんな自由人の彼は、白米を単体で食べることがない。混ぜごはん愛好家。カレー、鯖ごはんに生姜焼きごはん。お米はおかずと混ざって味付きになっていなければNGである。
奇跡は、起きた。
バルミューダで炊いた白米を、偏食二歳児がもりもり食べだしたのである。嘘のように。
ああ、本物だったのだ…
私たちは固唾を飲んだ。たぬき腹の本能に率直な小男が、今、目の前で高級炊飯器の価値を証明している。
「すごい…食べてる…」
「やっぱり違うんだ…美味しさがわかるんだッ!」
さすがはバルミューダ!!!!と歓声をあげてこのブログを締めくくりたいところであるが、その前にもう一つ、二歳児の重要な特性を思い出さなければならない。
気まぐれ。
昨日嬉々として食べたミカンを、今日食べない。バナナ大好きなんだ!と思って二房買ってきた瞬間、ブームが終了。日常茶飯事である。
バルミューダで炊いた極上の白米を前に、翌日には得意げにこうである。
「カレー!」
「あとコロッケ、それから唐揚げ!」
あ、バルミューダの炊飯器?
全力でおすすめです。だってめちゃくちゃ美味しい(に決まってる)ので。
いちいち奮闘してしまうのは何故でしょう。
Sweet+++ tea time
ayako
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