今年一番のエッセイ集『パリのキッチンで四角いバゲットを焼きながら』

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今年読んだエッセイの中で、ダントツ面白かった一冊、中島たい子さんの『パリのキッチンで四角いバゲットを焼きながら』

(10月末にして言い切る気の早さ)

大好きなイラストレーターイザベル・ボワノさんの絵に惹かれて手に取ったら、中身の文章も最高に面白かった…

よくある憧れの「フランス人は」にむず痒くなっちゃう人へ

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皆さんご存じの通り、「フランス人のライフスタイルってオシャレで素敵だヨ!真似しなヨ!」という本は世の中に溢れている。

私のように性格がひねくれていると「うわぁ…やってみたい!」となるより先に「プッ来ましたな〜」と謎の目線で一歩引いてしまう。

そんな感じでお腹いっぱいな「憧れフランス人」とは、また別の視点で描かれるのがこの本。

この本の中で言う「フランス人」とは、あくまで私の親戚のことを指していて、必ずしも全般を指しているわけではないので、そのように読んでもらえたらと思う。うちの親戚が、少し変わっているという可能性は大いにある。

著者の中島たい子さんは、叔父さんが二十代の頃フランスに渡り、現地のフランス人女性と結婚した。そのためフランス人の叔母、いとこ達との交流が子どもの頃から続いている。

だからなんというか、一般化したり美化したり、型にはめたような「フランス人」の話ではなく、もっと身近で具体的で、現実的な人間の話が書いてある。それがなんとも言えずリアルで魅力的なのだ。

「フランス人の洋服事情について、ちょっと聞いていい?」

「喜んで。なんでも聞いて!」

「フランス人はたくさんの服を持たない、っていう本が日本で流行ってるんだけど」

「……」

この会話の展開がまたとびきり面白い。

「それは、本当に人ぞれぞれだと思うけど……。私たちの世代で言えば、実のところ……ほとんどの人が、すっごくたくさんの服を持ってる」

「えっ?」

「よく着る服だけじゃなくて、いらない服も、いーっぱい持ってる。減らしても減らしても、それでも、まだありすぎだって、みんな言う」

「あ、そう……」

一筋縄ではいかない、従姉妹ソフィーとのこの会話だけで、ニヤニヤしてしまう。

好きなブランドの話に移り、

「たとえば、どこのブランド?」

私が訊ねると、ソフィーは笑って返した。

「私のまわりで人気があるのは、なんと言っても『モノプリ』!(フランスの大型スーパー。ややおしゃれな『イトーヨーカドー』『イオン』な感じ)」

あの、それはブランドではないです、とツッコミを入れたかったが、自分が思い描いていたフランス人は、もはやここにはいないということがわかってきた。

ちなみにソフィーは日本でいう自由が丘のような、とびきりオシャレなエリアに家族で住んでいて、周囲に無数にあるオシャレなパン屋でこだわりのバゲットやクロワッサンを買ってくるような(おお…これぞフランス人…)な一面もある。

食材の買い方、ピクニックや旅行先での過ごし方、日々の料理の工夫、掃除のスタイル、小包の送り方に古いものやバーゲンセールへの愛の根本思想まで、とにかく惹き込まれるエピソードが無数に出てくる。

そのいずれにおいても、どこか憎めないリアルな人間の暮らしがあり、なんといっても著者である中島たい子さんの文章がとにかく魅力的な一冊。

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目次のタイトルだけでウキウキしちゃう

肩の力を抜いて、楽しく暮らすということ

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肩肘張らずに、自分のスタイルを大事に、楽しく暮らす。

こうやって言葉にしてしまうと陳腐なことが、じわじわと心に染み込んでくるようなエッセイ集。

最後には、エッセイにまつわるレシピがイラスト付きで紹介されていて、そのいくつかはさっそく実際に試してみた。

「ええー?!こんなに簡単でこんなに美味しいものが?!」という嬉しい衝撃とともに、確実に自分の生活に馴染みそうな予感に心弾んだ。料理の楽しさってこれだなぁと思わせてくれるレシピたち。

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ロズリーヌの四角いバゲット

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ソフィーのドレッシング

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シスターのキッシュ

まだまだ書き足りないので、本の感想と交えつつ、それぞれのお料理日記も書く予定。

今日はひとまずこんなところで、一番好きな一節を引用してみたい。

叔母ロズリーヌに

「日々の生活で、どのようなときに幸せを感じますか?」

とメールで質問すると、なんとも美しい返事がかえってくるのだ。

「私にとって、暖炉の火、友人たち、シャンパン、おしゃべり……そして、花々のある一角や、花が満開の林檎の木が、もうこれ以上はないと思う、人生の喜びです」

これに対する、著者の言葉もまたステキだなぁとしみじみ思う。

こんな文章、私には書けない。もの心ついたときから憧れていた人。その叔母に近づく日は、未だ遠い。せめて同じ味のバゲットが焼けるよう、毎日を楽しんで暮らしたいと思う。ああ、四角いバゲットに、あの濃厚な木イチゴのジャムをつけて食べたい!

せめて同じ味のバゲットが焼けるよう、「頑張る」とか「精進する」とかそういう類のストイックな言葉が来るのかと思ったら、「毎日を楽しんで暮らす」という表現が続いてアッと爽やかな肩透かしをくらってしまう。

それは甘やかな響きのようで、限られた条件の中で楽しむための工夫や準備や機転の良さ、前向きな心の持ちように適度な力の抜き加減まで、実に奥深い「生きる術」が必要なのだ。

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ままならぬこともたくさんあるけれど、そんな心持ちで、積み重ねていきたいなぁ。

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Sweet+++ tea time
ayako

今日のおすすめ

軽いエッセイ集は読み終わるとすぐに売ってしまうことがほとんどだけど、これはレシピも永久保存版だし、中のエピソードも繰り返し読み返したい!と思う一冊だった。

▽楽天ブックスでも買えるよ▽

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