窮屈な日々を生きやすくする処方箋。チェコ好き(和田真里奈)さんの新刊感想

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手に取ったら最後、一気に読んでしまった。気づいたら夜中の2時。

チェコ好きこと和田真里奈さんの新刊である。

『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか 女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド』

迫力のあるタイトル!と同時に、この題や装丁のイメージとはまた一味も二味も違う中身について、感想を書いてみたい。

「未婚」「既婚」どちらもマルがつかない人も読んでほしい!

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表紙を開くとこんな案内がある。

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私はあまり当てはまる項目がない(趣味はいつもめちゃくちゃある)

いわゆる「独身アラサー女性向けの本」なのかなという感じがするかもしれない。

でも、そんな分類はとっても一時的なものだと、本の中でも書かれている。

私たちのステータスは、固定されているように見えて、本当はいつだってグレーな状態だ。

私の母は結婚して子どもを二人産み、離婚してシングルマザーな日々を終え、今は自営業で一人暮らしを満喫している。「未婚」と「既婚」しか選択肢がないアンケートで、マルをつける場所がないとよく笑っている。

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「ひとりでも誰かといても人生が楽しくなるように」

性別や年齢、既婚未婚など関係なく、日々を生きやすくするヒントが散りばめられている一冊だとオススメしたい。

念のため言っておくと、軽く読めて秒速でめちゃくちゃ元気でるけど一過性だった…という感じの、栄養ドリンクみたいな自己啓発本ではない。

具だくさんの、出汁がきいた、お味噌汁とでもいおうか。じわじわと体が温まってくる。読み終わる頃には、読み始めたい小説やエッセイで頭がいっぱいになっている。世界が優しくなっているのではなくて、世界に対する自分がちょっと優しくなっている。

「あとで後悔するよ」系ご忠告への処方箋

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私が一番好きなのは「後悔しない人生なんかより何かを強く信じた人生を」という話である。

あとで後悔するよ系ご忠告というのがある。

「今はいいかもしれないけど、35歳をすぎたら、すっごく寂しくなるよ」

とか

「社会人になったら遊べなくなるから、今のうちに遊んでおいたほうがいいよ」

というのが紹介されている。

「若いうちに子ども産んだほうがいいよ」「早く結婚して幸せになれるといいね」「◯◯学部の方があとで潰しがきくよ」とか、びっくりするような古典的爆弾が降ってくる、油断ならない令和である。

そんなとき著者が思い浮かべる文学が、カズオ・イシグロの『日の名残り』だという。

詳しいところは割愛するけれど(いきなり雑なレビューだ)、とてもとてもいいことが書いてあるので、とにかくぜひ読んでみてほしい。

私もこの先、年を取る。40代になり、50代になる。

だけどそのとき、若い女性たちに「35歳すぎたら寂しくなるよ」とアドバイスするよりは、スティーブンズにハンカチを差し出した、この老人のようでありたいと思う。過去に何があろうと、「もしも」の人生を想像して苦しくなることがあるとしても、「夕方がいちばんいい時間なんだ」「みんな同じさ。いつか休むときが来るんだよ」って。

そう言えるように年齢を重ねていくことが、私の目標である。

そのときどきで「何か」を選択し信じて力を注いだなら、人生の夕方はきっと優しい。不安で先回り先回りするよりも、良い意味でもっと肩の力を抜いて昼間の時間を過ごしたい。

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写真は昨日の夕暮れ。秋の小名木川沿いは一段と美しかった。

「夕方が一日でいちばんいい時間なんだ」

夕暮れの交差点、オレンジ色に染まる街で、みんなが優しい疲労を浮かべて信号が変わるのを待っている。とても愛おしい光景だと思う。

歳をとるということ

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大学生のころ、ロシア人と日本人の先生ふたりが、口々にこう言っていたのをときどき思い出す。

「歳をとるってねぇ、本当に寂しくて、つらくて、悲しいことなの。こんなに寂しい日々なんてねぇ」

まだツルツルの肌をしていた二十歳前後の私は、どうしてそんな暗い話をするんだろうと思って聞いていた。

先日、O・ヘンリーの短編小説『伯爵と婚礼の客』を読んでいたら、こんな一節に出会った。

若者の悲しみと年寄りの悲しみには、次のような違いがある。若者の悲しみは、分かち合う者がいれば分かち合った分だけ軽くなる。年寄りの場合は、その悲しみを他者に分け与え、さらに分け与えても、最初に抱えていた悲しみは決して軽くならない。

 

*・*・*

 

『寂しくもないし〜』の本の中では、「失敗しても転落してもーどんな人生も肯定してくれるものの存在」や「ひとりでも豊かな午後を過ごせるし、というか過ごせなくても大丈夫」という話で、老いについて触れられている。

和田真里奈さんは、こんなふうに書いている。

年齢を重ねれば、価値観は変わり、情熱は醒め、肉体も人間的魅力も衰える。だけど、その過程にこそ美しさが宿ることがある。人生のどの時点も「仮」でしかなく、それは少し不安でもあるけれど、その不安を受け止めて、孤独に、自由でいることはとてもすがすがしい。

歳をとっていく上での「美しさ」とか「自由」ってどんなものだろう。幸せや成功への執着が薄れ、他の誰かと比べたりせず、周りのひとと分かち合えない悲しみをちゃんと受け止めること。そんなふうに凛としていられたら理想だ…

でもおばあさんになっても、インスタ(的なもの)に偽りのおしゃれ朝食写真を投稿し、「いいね」の数を気にしてるかもしれない…いつまでたっても俗っぽい自分の姿が浮かばなくもない。

フィッツジェラルドの『夜はやさし』と上野千鶴子さんの『ひとりの午後に』を、そんな自分への課題図書としたい。読むぞー!

一つつけたしておくと、大学生の私たちに「歳をとるってほんとに寂しい」と嘆いていた先生たちは、優しくてユーモラスで、とてもあたたかい人たちだった。

今住んでる部屋に120%満足している人はいない

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狭いワンルームでも豪邸でも、120%満足な部屋に住んでいるひとはいないんじゃないかと思っている(豪邸に住んだことないからわからないけど)

例えば理想の間取りでゼロから家を建てたりリフォームしても、必ず後から不満は出てくるだろう。なぜなら私たちは歳をとるし世の中は変化するし、ライフスタイルは常に変わるからだ。誤算だってある。

私など常に思っている。ベランダが南向きで洗濯物が上に干せたらいいなとか、宅配ボックスがあれば便利なのにとか、次引っ越したらもっと広いキッチンがいいなとか(味噌汁とカレーしか作らないのに)

じゃあ今住んでいるこの家が嫌いなのかといえば、そんなことは全然なくて、むしろめちゃくちゃ愛着あるし悪くないなァと思っている。

なにしろ狭狭の一人暮らしから今の家に越してきたときは、コンロが三つもある!?と感激したのだ。人はあっという間に慣れて最初の感動を忘れる。

*・*・*

 

たぶん人生も似ていて、1mmの不安もなくモヤモヤしない完璧な日々というのは存在しないし、「これでぜんぶ解決幸せッ!」と思ったはずなのに気づいたらまた不満だらけになってたりもするだろう。

思い切って引っ越したりリフォームしたりすることもときには必要だけど、今住んでる部屋に工夫を凝らし、愛着を持って暮らしていく術を磨いておくことはもっと必要だ。

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社会の常識とされているものを疑ってみること。あえて直感を信じてみること。人生の節目を自分で作り出すこと。誰かの悪を糾弾する前に考えるべきこと。

窮屈になりがちな日々を生きやすくするヒント、ヒントにつながる文学を、身近なモヤモヤを切り口に紹介してくれているのが、この本なのだ。

さて、今日も完璧とは程遠い自分の部屋で、楽しくやっていこうじゃありませんか?

まとめ:とにかくおすすめ

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私はもともとAMの連載も読んでいたけれど、書き下ろし部分がいっぱいで本としてまとまっているものを読むのはやっぱり最高だった!

一つ一つのエッセイも読み物として楽しめるし、小説やエッセイがたくさん紹介されたブックガイドにもなっているので、なんとなく最近読みたい本がないな〜という人にもおすすめです。

なんども読み直したり、紹介されてる小説に手を伸ばしたり、長く付き合える一冊です。

 

▽著者ブログ▽

aniram-czech.hatenablog.com

▽本のもとになっているAM連載▽

am-our.com

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紹介されていた本を、いろいろ読んでみるぞ〜!

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Sweet+++ tea time
ayako

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