「結婚してよかった」「この人と一緒に暮らしてよかった」と思える瞬間はいつですか?
そう聞かれたらなんと答えるだろう。
私は常々「生まれ変わったら男がいいな〜」と思っている。いや、女も十分楽しいんだけど、なんといってもセキュリティー面では敵わない。
マンションのエレベーターも宅配便も常に警戒するし、タクシーもちょっと緊張する。駅で変な人に絡まれるのが怖いし、真夜中に一人で出歩いたりは、日本でもしない。
止むを得ず夜中に帰るときは大警戒、偶然後ろを歩いている男の人がいるだけで「もしかして付いてきてたら…」と追い抜いてくれるのを待ったりする。
まあ、おおげさな言い方をしたけど、やっぱり女の人の方がなにかと危険な目にあう可能性は高いと思う。ガタイのいい男の人には、わからない恐怖感だろうなぁと。
さて、ガタイのいい男の人といえば夫である。非常に大きい。大きいというよりデカイ。身長は180cm前半であるが、なんといっても分厚い。立体感がすごい。デブという二文字が浮かぶが、夫いわく全て筋肉だそうだ。
ま、それはどっちでもいいとして(よくないが)、だから夫はこれらの恐怖感をもちろん味わったことがない。駅で絡まれることもない。夜道も人気のない地下鉄も駐輪場もマンションのエレベーターもまったく怖くない。24時間淡々と暮らすしろくまライフである。羨ましい。
夫と一緒に暮らすようになって、私も夜のコンビニデビューしたり映画のレイトショーを観たりするようになった。めちゃくちゃ楽しいんですけど?羨ましすぎるね?
話は突然変わるようであるが、先だって近所のパン屋に行ってきた。
パン屋さんのおばあさんとはよく世間話をする。時々、サンドイッチやあんぱんをおまけに付けてくれる。
その日は野沢菜のおやきをおまけにもらい、帰宅した。
「え!これおまけでもらったの!?」
ちなみに、野沢菜のおやきは夫の好物である。
「そうだよ。おばあさん元気そうだったよ〜」
私はパンをテーブルに置き、テキパキと家事を開始した。何もかもが当たり前の日常であった。
「いいよね…」
野沢菜のおやきを見つめたまま、夫は言った。
「ayakoさんはおまけがもらえる顔だから、羨ましいよ」
ずるい、と顔に書いてあった。
おまけがもらえる顔・・・
そうか!思わず膝を打つ瞬間である。
思えば私はよくおまけをもらう。少なくとも夫よりもらっている。
パン屋さんではあんぱんを、カレー屋さんではマンゴーラッシーをおまけにもらう。食べてたら雨が降り出して、傘を渡してくれたラーメン屋さんもあったな。書き出してみるとその規模の小ささに吹きそうになるが、笑ってはいけない。今あるものに感謝する、それが幸せの秘訣である。
私は「おまけがもらえる顔」を持っているし、夫は「絡まれない外見」を持っている。
だが私は、夜道も安心の淡々しろくまライフが羨ましいし、夫は野沢菜のおやきが欲しい。
人間、つくづくないものねだり。でも、ないものねだりの二人だからこそコラボレーションの意味がある。
さて、冒頭の質問に戻ろう。
「このひとと一緒に暮らしてよかった、と思える瞬間はいつですか?」
こう聞かれたら、嬉々として答えるだろう。
「彼のおかげで、淡々しろくまライフが送れるときですね」
「彼女のおかげで、野沢菜のおやきをおまけにもらえるときです」
お互い歳をとって特典がなくなっても、仲良くやれるといいんだけど。
Sweet+++ tea time
ayako