前々から似ているとは思っていたのだ。
帰宅した夫が、ポケットから出したコインロッカー券の紙切れを見て、私はにんまりと笑った。
「イヌ」さんロッカー!
「やっぱりねやっぱりね、イヌだったんだね。コインロッカーはわかってたね」
私はひとりではしゃいでいた。
「何言ってるのayakoさん、場所によってロッカーの名前は決まってるんだから…」
夫は呆れていたが、先日、私は決定的瞬間を見たのである。
タイのカオラック旅行の二日目、晩ごはんの時間であった。役立つ旅ブログを書こうと思っているのにさっそく店の名前を忘れたが、まあそれはよい。とにかくタイ料理レストランである。
こんな感じで、外に面した小屋みたいなところで食べていた。ま、おしゃれじゃない「テラス席」と思ってもらえれば間違いない。
料理が運ばれてくる前から、私たちのテーブルの周りは騒がしかった。なぜかって・・・
彼女がじっと見てるからである。ちなみにもう一匹同じような外見のオス犬もいて、二匹が行ったり来たりしながら私たちに懸命なアピールをしていた。
カオラックには、野良犬がふつうにたくさんんいる。首輪をつけた飼い犬も、繋がれないでそのへんを歩いている。みんな近所の人から餌をもらって暮らしているのだろう、最初は恐ろしく思っていたが、どの犬もおとなしくて優しい性格であった。
二匹の犬たちは代わる代わるやってきては、くうんと物悲しい瞳でこちらを見つめる。
もうすぐ食事が運ばれてくるのを理解しているのである。
第一陣の料理がテーブルに並んだ。
犬たちはもう必死でやってきては、悲しい目で見つめる。無理やりこちらに入ってきたりはしない。ちゃんと距離をわきまえたまま、静かにアピールしているのである。
私は夫の反応を待った。夫は動物が大好きである。犬も猫もほんとうに好きで、街中でなでなでする機会を心待ちにしている人である。
ちょっと食べ物を分けてあげるんだろうか…それとも「ごめんね」と申し訳なさそうな顔をするのかな…
もう4年近く一緒に暮らしている夫の反応を、密かに予想したりしていた。
しかし夫は冷たかった。
「シッ!シッ!」
犬を手で追い払うジェスチャーまでしながら、食べ物を守るように食べている。
「冷たいやつだなァ・・・」
犬たちの声が聞こえてくるようであった。
やがてメイン料理のお肉が運ばれてきた。
離れたところで座っていた二匹の犬たちは、ふたたびアピールのためにやってきた。
この悲しげな表情で、代わる代わるテーブルの前を歩いたり、ちょっと離れたところで立ち尽くしている。
「シッ!シッ!」
夫は今回も手で追い払うジェスチャーをしつつ、取られまいと必死でお肉を食べていた。完全に犬たちと「対等」であった。
そこでようやく私は気づいたのである。
もう一匹の大型犬が、目の前にいることに。
3匹の犬がごはんを取り合っている、そう考えるとすべて合点がいく光景なのであった。
私は「イヌさんロッカー」の文字を見ながら、思わずにやけていた。
「4年前、出会った頃は大きくて怖いと思ってたけど…大型犬なのに、実はすごく穏やかで優しいんだよねぇ」
私が目を細めていると、夫はもはや犬であることを否定せずに言った。
「大型犬ってだいたいそうでしょ」
「…言われてみれば!」
私は物静かなゴールデンレトリバーを思い浮かべたあと、キャンキャンと鳴きわめくポメラニアンを想像した。なるほど言われてみればその通りだ。
「たしかに、チビっちゃい犬の方がきゃんきゃん吠えてうるさかったりするもんねぇ…」
すると夫は間髪入れずにこういった。
「それayakoさんだから」
私はものすごくよく喋る身長157cmの女であるが、夫には「よく吠えるチビ犬」と思われているようである。
どうやらそのようである。
Sweet+++ tea time
ayako
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