ハーモニーを味わえない男たち

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15時はおやつの時間。

一人で生活していた頃は、意識すらしなかった机上の習慣だ。しかし一歳児と二人で過ごす今、それは学校の時間割りのごとく一日のタイムスケジュールに組み込まれている。

三度の食事におやつ、起床から就寝まで、毎日規則正しく過ごすことで理想の子育てが実現するから……などではなく、

なんとか一日をやり過ごすための時間稼ぎである。

*・*・*

 

我々は毎日ヒマである。

我々、というのは一歳児の王子と私だが、二人とも毎日予定がない。朝起きて、パンを食べ、なんとなく公園やら児童館やらに行き、お昼を食べ、昼寝をし、なんとなく遊んだり買い物に行ったり散歩したりして一日を過ごしている。

そんなまっさらな一日のタイムスケジュールに、書き込める唯一無二の重要イベント、それが「15:00 おやつ」なのである。

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満を持して15時、我々はクッキーを食べる。

「甘い物をいただくときは、必ずそれに合う飲み物を用意しなければならない」

32年の人生で得た重要真理に基づき、私は王子に牛乳を用意する。

「クッキー!ぐーにゅう!」

王子も声を張り上げて喜んでいる。そう、クッキーと牛乳の相性というのは至高のものである。時間稼ぎのおやつタイムだからといって手抜きはいけない。いつだって全力で楽しむのだ…自分には熱々のミルクティーを茶葉から入れる。

さあ、いざ待望のクッキータイム!

マグカップに牛乳を注ぐと、王子は大慌てでマグを掴む。牛乳を飲んだり、ブクブクしたり、少々こぼしたり、何をしているのかよくわからないが牛乳と一対一の格闘をしている。

さらさらさらさら。今度はクッキーをお皿に並べる。

王子はマグをテーブルに戻し、即座にクッキーに取り掛かる。そしてクッキーにかかりきりになり、戻ってこない。

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(お〜い!ここで牛乳だよッ!その甘みと小麦粉の程よいモサモサ感を、牛乳で流し込んで味の調和を楽しむんだよッ!)

内心必死で呼びかけているのだが、そこは大人、余裕の微笑を浮かべながらこう問いかける。

「牛乳はいいの?クッキーおいしいおいしいだね、さあ、牛乳も飲んでごらん」

洞窟に向かって叫んでいるようなものである。

牛乳のことなど完全に忘れ去り、ひたすらクッキーを口の中に押し込む一歳児に、私の声は届かない。

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クッキー1枚で、紅茶が1杯飲める。

これは真理である。私のティータイム方程式において、クッキー1枚と紅茶1杯はイコールで結ばれる。

ケーキ一切れで、紅茶が何杯も飲める。

したがって当然こうなる。むしろケーキを一切れ食べきるために、十分な紅茶の量を確保しなければならない。ポットで用意するのは当然だが、大きめポットでないと不安になる。

外でお茶をするとき、紅茶がポットではなくカップで出てくると緊張が走る。これは試練だ。ど甘いスイーツに、たった一杯の紅茶。そうとう節約しなければならない…調整能力が問われる瞬間…

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「ayakoさんってほんとめんどくさいよね」

夫は言う。

「いちいち飲み物準備したりして時間かかるんだよなぁ。常に水か牛乳を飲んでればいいのに」

夫は甘い物と飲み物の組み合わせ、絶妙なハーモニーを全く理解しない。

先日、義実家で桜餅をいただいたとき、お義母さんが緑茶を淹れていたのに「コーラでいいや」とペットボトルの茶色い液体を流し込んだ男である(桜餅とコーラ…信じられるだろうか?)

*・*・*

 

「待ってぇッ!!!」

とっておきの甘いお菓子、いきなり袋を破って大口を開ける夫に待ったをかけ、電気ケトルのスイッチを入れる。我が家における日常的な光景だ。

あわてて緑茶を用意すると、もう苺大福がない。あわててコーヒーを用意すると、もうチーズケーキがない。完全にない。胃袋の彼方である。

「嘘、嘘でしょう…紅茶なしで食べちゃったってこと…?」

「どうしたの、そんな唖然として…紅茶は紅茶で飲むよ別に…?」

お皿に載せることなくタルトを丸呑みし、紅茶との調和も堪能しない。目の前にあるものをとりあえず口に入れるスタンスの大男(32歳)に、ひたすらクッキーを詰め込む王子(1歳)の姿が重なる。

そう、彼らはハーモニーを味わえない男たちなのだ。

*・*・*

 

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話は突然変わるようであるが、先日、晩ごはんに豚肉の生姜焼きを食べていた。

私が肉を口に入れると、普段おだやかな夫が突然声を荒げた。

「そこでご飯を掻き込むッ!」

は、何事かと思う。私は顔面蒼白の夫を無視して、肉を咀嚼し、落ち着いたところでほんの一口の白米を食べた。

「ああああああ〜!!!その肉一枚で、お茶碗半分のご飯がいけるのに…肉の途中でご飯を掻き込んで味の調和を堪能しないと…ayakoさんはタイミングが遅いよ…」

世の中にはさまざまなハーモニーがあるらしい。

私がケーキ一切れで紅茶が何杯も飲めるように、夫は豚肉の生姜焼き一枚で、ご飯が何杯もいけるという。

ちなみに夫は牛丼海鮮丼カレーライスの類を注文して、ご飯の量が少ないと緊張が走るようだ。これは試練だ。味の濃いおかずに、少量の白米。そうとう節約しなければならない…調整能力が問われる瞬間…

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分野こそ違えど、食を前にして謎に臨戦態勢に入るところは完全に同じなのであった。

さて、明日はどんなおやつにするかな?

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Sweet+++ tea time
ayako

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