今日は久々の映画日記を書こうと思う。
さて突然だが、皆さんこのクイズをご存知だろうか?
有名な脳外科医がいました。大学病院に勤めており、いくつかの大きな手術を成功させていました。ある日、重要な国際会議から帰ってきたところ、病院から緊急連絡が入りました。
交通事故で大怪我をした二人が運ばれてきたとのこと。二人は親子で、父親の方は残念ながら死亡、だが息子の方には息があるため、緊急のオペをお願いしたいという内容でした。
医師は「すぐ行きます」と看護師に伝え、猛スピードで病院に向かいました。そして、処置室で息を飲んだのです。ベッドに横たわって若い男は、なんとその医師の息子だったのですから。
ちなみに、父親は事故で死亡しています。これは一体どういうことなのでしょう?
バリエーションこそいろいろあるが、私の時はだいたいこんな内容であった。
難しく考えるようなことは何もない、クイズとも言えないようなクイズである。
チッチッチッチ
皆さん、わかりましたか?
思い込みって面白い
さっきのクイズの答え(?)は簡単で「医者は女性(母親)である」ということ。
私たちが何でもニュートラルに考えることができるならば、クイズにもなり得ない話だ。父親と息子で病院に運ばれてきて、医者が子どもを見て「自分の息子だ」というのだから、選択肢は母親しかない。
だが私たちは無意識のうちに先入観とか思い込みを持って物事を考えている。この場合も「外科医=男性」というステレオタイプが鍵となって柔らかい思考を妨げているらしい。
「スパイ」と聞いて私が想像するもの
私には「外科医=男性」というステレオタイプはなかったのであるが、「スパイ」、そして「スパイ映画」には強い先入観を持っていた。
そう、映画の話である。
夫から「スパイ映画を観に行こう」と言われたとき、私はいわゆる「007」のジェームズ・ボンドとか「ミッション・インポッシブル」のイーサンみたいな、なんか"体格よし運動神経よし不可能を可能にしちゃうスーパーマンみたいな男(20~30代で女にもモテモテです)"みたいな設定を勝手に思い浮かべていた。
読者の皆さん、笑ってますネ。
だが映画館まで足を運び、いざ上映が始まると、スクリーンに映し出されたのは、質素な風貌の初老の男だったのである。それも画家。
私がスパイと聞いて想像し得ないような、線の細い50代半ばの男。とてもじゃないけど"体格よし運動神経よし"という感じではなく、実際、映画の冒頭でFBIに家宅捜索され、あっけなく逮捕されてしまう。
これは「007」みたいに活躍するスパイの話ではない。
長いこと異国で諜報活動をこなし、人生の終わりに近づいた孤独なスパイ。逮捕された後のスパイ。ヒーローでも悪者でもない人間の物語だったのだ。
敵国のスパイにも弁護士はつかなけばならない
この「ブリッジ・オブ・スパイ」という映画は実話に基づいている。冷戦中の1957年、ソ連のスパイであるルドルフ・アベルがFBIに捕まるところから物語は始まるのであるが、アメリカ中から憎まれてしかるべき敵国のスパイである彼にも、弁護士をつけなければならない。
誰もやりたくないこの役に抜擢されたのが保険専門の弁護士ジェームズ・ドノヴァンであった。
↑ 弁護士ドノヴァンの役を演じているのが、主演のトム・ハンクス。
こんな憎まれ役、誰だって嫌である。彼も断ろうとしたのであるが止む無く受けることに。まあ、「やっつけ仕事」で形式的な弁護だけすればいいよね。そう思っちゃうのも無理はない。だが、ドノヴァンはそんなふうに考えなかった。
初老のスパイ"アベル"は、冷戦下のアメリカ国民から最も憎まれる男である。しかし、ソ連の側から見れば国家のために働く男であったはずだ。そしてどんな条件を出されようとアメリカに買収されることなく、沈黙を守り、国家への忠誠を失わない。
逆に言えば、ソ連にも偵察飛行などの諜報活動をしているアメリカ人がいるわけで、敵国で捕まってしまえば「アメリカ人から見たアベル」と同じ立ち位置になるわけである。
ドノヴァンは彼を一人の人間としてみていた。「スパイ=悪」という先入観にとらわれなかった。いろいろな障壁があるが、弁護士ドノヴァンの尽力によって、アベルは死刑判決を免れ禁固30年に減刑されることになる。
スパイは交換される〜グリーニッケ橋にて〜
このあと話はさらに進んで、超簡単にいうと、ソ連でもアメリカ人の「スパイ」が逮捕される。若きアメリカ空軍中尉パワーズと、年老いたソ連のスパイアベル。互いのスパイを交換しようという水面下の外交取引に、弁護士ドノヴァンは奔走するわけである。
↑ 雰囲気がけっこうわかる予告編。ぜひ見てみてください。
私の好きなセリフを2つ挙げよう
まあ物語の詳しい展開はDVDなどで見てもらうとして(超面白いですよ)、これはいいなぁ!と私が気にいったセリフを紹介しよう。
緊張の場面がずっと続くのだが、弁護士ドノヴァンがアベルにこう質問するシーンが何度かある。
「不安じゃないのか?」
死刑になるかもしれない。祖国に帰れても裏切り者だと見なされるかもしれない。不安じゃないのか?
この問いに対して、アベルはいつもこう返すのだ。
「Would it help?」
字幕では「役に立つか?」となっていたが、不安になったところでどうしようもないだろう?というようなニュアンスじゃないだろうか。
これ、私も使おう。
「Would it help?」(首を軽く傾げながら)
アベルのようなレベルの危機にさらされているわけじゃないけど、不安になったって、人生しょうがないのだ!
アメリカの空軍中尉パワーズが、グリーニッケ橋の交換で無事に戻ってきた後、一同乗り込んだヘリコプターの中でのこと。
パワーズも若いながら国家機密を守り、ソ連に寝返らず、沈黙を守って帰ってきた。だがそれを真に保証するものはない。捕まりそうになったら自殺するように彼らは訓練されてきた。なぜそれができなかったのか。アメリカ側の連中は意外にも冷たいのである。
それで思わず「本当なんだ、本当に何も(ソ連で)しゃべってないんだ。信じてほしい」と口にすると、ドノヴァンは言うのだ。
「気にするな。他の人がどう思おうと、自分さえ確かなら」
ヘリコプターの中で孤独なパワーズに、ゆっくりと染み入るこの言葉。
これ、私も使おう。
他人にどう思われても、自分さえ確かなら堂々としていよう!
一本映画を見ると、毎日がこんなにも楽しくなる
私は芸術的に映画を批評したり分析したりとかはできないので、楽しんで見てるだけ。それでも、映画ってめちゃくちゃ面白い。感想を書くのも楽しい。
たったひとつのセリフが、それだけだと浮いちゃう、もしかして教科書みたいに流れちゃうようなものかもしれなくても、その物語のそのワンシーンで発せられることで、すっと身体の中に落ちてくるときがある。
それに私、この映画を見ちゃってから、しばらくずっとスパイブームだった。
現実のアベルの逮捕につながる「空洞5セント硬貨事件」なんて、英語のwikipediaまで読んでニヤニヤしていた。
【空洞5セント硬貨事件とは】
1953年、ブルックリンの新聞配達少年が偶然落とした新聞代の5セント硬貨が割れ、中から不審なマイクロフィルムが見つかった、という事件があった。FBIは4年の歳月を費し、1957年にアメリカの核情報を探るスパイとして自称画家であったマークが逮捕された。
国家諜報レベルの暗号を、薄いコインの中に隠すなんて!(ちなみにマークとはアベルのコードネームである)
映画でも冒頭、アベルが硬貨を開いて中からマイクロフィルムを出して解読しているシーンがある。冷戦時代、こんな"映画の中の話みたいな"スパイ活動が行われていたってだけでめちゃくちゃ興奮するではないか。
このコインの件から、冷戦時代のスパイが使っていたグッズにも俄然興味が出てしまった。
とか、
なんていうのもあった。
スパイが敵国で捕まったときに自殺するための毒入りカプセルらしい。
↑ これめちゃくちゃ面白かったです。真剣に作っていたなんて信じられないようなお茶目なスパイグッズが見られる。
こうしてスパイに開眼(?)させてくれたのも、一本の映画のおかげ。影響の受けやすい私は、一本面白い映画を見るとずっとそのことばかり考えてしまう。
「ブリッジ・オブ・スパイ」、めちゃくちゃ良い映画でした。もう一回見たいし、ここに書いてないけど良かったシーンは山ほどある。おすすめです。
今日の映画
DVD(またはamazonレンタル)
>>ブリッジ・オブ・スパイ (字幕版) Amazonビデオ-プライム・ビデオ
DVD購入だと1,500円で、レンタル映画だと399円だって。amazonってそのまま映画レンタルで見られるんだと、いま知った。
私みたいに超ハマっちゃった人向けの「ブリッジ・オブ・スパイ 2枚組DVD・ブルーレイ(初回限定版)」もある。
映画好きなら映画館に行こうっていうムードあるけど、ノートPCの小さな画面で見るのも実はすごく好きである。
ayakoさんのこぼれ話
ちなみに、今日の冒頭の医者が女性であるという心理学的クイズであるが、私は会社に入って1年目のとある研修でこの問いを出された。
4人の同期の中で、すぐに「医者=女性」という答えにたどり着いた私は、非常に頭が柔らかく先入観がないということになった。
さて、それから3年、私はあっけなく会社から脱落してしまった。一緒に研修を受けた同期3人は今も優秀に働いている。クイズだけできても駄目ということである。
緑くん、う、うるさいなぁ。
そろそろまた、映画観にいこっかなぁ…!
今週のお題 「映画の夏」
「また読みにきてね」
Sweet+++ tea time
ayako