「壁」はなくても、私たちは狭い世界で生きている。「オマールの壁」

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「あなたとなら、どこへでも一緒に行きたい」

突然ポエムをよみ始めたわけではない。読者の皆さんは、誰かに対してそんなふうに思ったことあるだろうか?

私の周りでは双方の仕事の都合で結婚しても別居婚というケースが往々にしてある。離れていても気持ちが繋がっているのは、愛だと思う。

一方で、「どこへでも一緒に行きたい。一緒に暮らしたい」っていう若くて原始的な思いにも、強いエネルギーを感じちゃうのは事実だ。

まだキャリアウーマンを目指していた就活生の頃

私もかつては就活生であり、自分も「日経ウーマン」的な人生を歩むに違いないと妄想していた時期があったことをここに告白しよう。その頃私は「自分のキャリアを犠牲にして、夫の転勤についていくなんてまっぴら」みたいなことを考えていた。彼氏もいなかったのにである。

自由に恋愛をしたり、好きな人と一緒に暮らすかどうかを選択したり。

それもこれも、すべては自由な世界の平和な国の話である。

なぜ私がこんな話を始めたかというと、ある映画を観たからだ。

 パレスチナ自治区を舞台にした恋愛映画「オマールの壁」である。

「あなたとなら火星でも暮らせるわ」

具体的な言い回しは覚えていないが、映画の中の台詞である。「結婚したらここに住もう」と愛する男が案内してくれた部屋で、女の子が言ったのだ。「あなたとなら火星でも暮らせるわ」的なことを。

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男の名はオマール。女の子はまだ学生のナディア。

二人の間には、お互いのことを強く愛する気持ちと、閉塞感からどこか遠くへ行きたいという思いが交錯する。

なぜなら彼らは、不自由な世界に生きているからである。

 不自由ってどれくらい不自由なの?

この映画のキャッチコピーには「普通の愛も、普通の戦争も、ここにはない。」とある。予告編はなんとなく怖いシーンが多く見える。だが実際は普通の生活もちゃんとあるのだ。

不自由ではない日々

オマールは愛するナディアと結婚するための費用を、パン屋で働きながらコツコツと貯めている。実に素晴らしい男子である。 

家族でふつうに食卓を囲み、友達と冗談を言い合う。猫を可愛がるシーンもよかった。幼なじみ同士集まって、お茶を飲みながら話したりもする。

私たちと同じ穏やかな日常も確かにそこには流れているように見えた。だがそれだけではない。

不自由な日々

そう、例えば「幼なじみ同士集まって、お茶を飲みながら話したり」 するために、オマールは毎回8メートルの分離壁を越えていかなければならないのだ。

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この分離壁はイスラエルが領土拡大のために、パレスチナ側に食い込んで建設してしまっているので、彼女や幼なじみに会いにいくのも毎回一苦労なんである。しかも、運が悪ければイスラエル兵から撃たれてしまう。

実際オマールもイスラエル兵に撃たれたり暴力で屈辱的な目にあったりする。

サスペンス要素たっぷりです

映画を通して音楽がなく、ドキュメンタリー映画的な感じなの?!と思っちゃうけれど、物語性もすごい。めちゃくちゃドキドキするサスペンス仕立てなんである。2点だけ紹介しよう。

1. 実はこの恋、三角関係でした!

実はもう一人、ナディアのことが好きな男の子がいる。彼はオマールの幼なじみでもある(よくある展開)。

ナディアはオマールが好きなんだよね?ちゃんとオマールだけを見てくれているだよね?ここが謎めいてくる。

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2. オマール達、イスラエル兵を狙撃した!

オマールは幼なじみと三人(そのうち一人はナディアを巡る恋敵でもある)でイスラエル兵を狙撃した。オマールは捕まり、イスラエル秘密警察からスパイにならなければ懲役90年と言われる。イスラエル占領が終わらない限り、それは有効だと。

オマールはスパイになったの?騙しているの?騙されてるの?

しかも仲間にもう一人スパイがいるらしい。オマールは裏切ったの?裏切られたの?

で、オマールの恋はうまくいくの?いかないの!?

 内緒である。最後にもドンデン返しが用意されている。ぜひ映画を観てください。

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>>映画『オマールの壁』公式サイト

いっつも狭い世界で生きてるんだ、私は

外国の映画を観たとき、いつも感じることである。

この映画はスタッフもすべてパレスチナ人、100%パレスチナの資本で作られたという。映画のパンフレットを買って読んでいたら、確かに俳優さんもパレスチナ人だ。

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けれどやっぱり、オマール扮するアダム・バクリは俳優一家で現在もニューヨークを拠点に活躍しているらしいし、ナディア演じるリーム・リューバニも幼い頃からバレエや歌を習っていたり。なんとなく上流階級という感じがする。

同じ時代なのに、遠い世界

いったい、パレスチナに生きる普通の人というか庶民の暮らしは、どんな感じなんだろう?どんなことを感じて生活してるんだろう?それが全然想像もつかない。

何より私が不思議だったのは「イスラエル兵への襲撃と好きな女の子との結婚」という全然相容れない二つの事象を、オマールが両立できると思っていることだった。

私たちには物理的な「壁」がないけれど、やっぱり狭い世界を生きている。

だから映画はいい。理解できてなくても、一瞬でも自分の狭い日常からぶっとばされるから。

おまけ:楽しかった渋谷の映画館「UPLINK」

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「オマールの壁」を観るために初めて訪れた、渋谷のアップリンク(UPLINK)という映画館。

これが、ものすごく良かったのである。

なんといってもおしゃれ。見てくださいこの外観。ピンク色の壁にピンク色の花がマッチしていてすごく好み。

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雨の日にいったのだが、小さな映画館は混み合っていて、本当に映画好きなんだろうなーという人たちが働いていて、とにかく良い空気感だった。

中にはおしゃれなカフェレストランもあって。

私は強く熱望しましたよ。

「映画を見終わった後、こんなところでお酒を飲みながら語り合いたい!」

 そんなおしゃれカップルに憧れる。

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ええ、緑くん、そのとおりですよ。

食いしん坊の夫の見事なエスコートにより、傘もなく渋谷を走った挙句、まったくおしゃれではないラーメン屋に入ったというのが現実である。

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sweeteatime.hatenablog.com

おしゃれな女は映画を観る」というカテゴリーを作って、ちょっとずつ書いていく予定。お楽しみに。