「この店はコスパがいい!」
そういうふうに使う「コスパ」は、次の三つの観点から「お得だ」と判断して発せられるものである。
・ボリューム
・味
・値段
でも真の意味での「コスパ」を追求するなら、こういう軸もあるはずだ。
・時間
・エネルギー(感動など)
先日、家の中を大掃除していたら、とある本が出てきた。
小学生の頃に買ってもらった一冊の文庫本。
安房直子の『まほうをかけられた舌』である。
私は小学生の頃、安房直子さんの作品が大好きで大好きで、家の近くの図書館に置いてあるものは全て読んでしまった。
子どもの頃、本は「毎週図書館で借りるもの」で、なかなか買ってもらう機会がなかった。
そういうわけだから、本屋さんで母にこの本を買ってもらった私は「自分のものになった本」という存在が嬉しくて嬉しくて、もう繰り返し何度も読んだわけである。
私は昔のものをあまり取っておかない方なのだが、何度かの引越しや断捨離の危機をかいくぐり、もう15年以上の歳月をかけて手元に残っている貴重な一冊。
それほどに、思い入れが強く、影響を与えてくれた本なのだ。
「文庫本がもっともお得」論
さて、以前、私は「文庫本がもっともお得」論を唱えていた(心の中で)
思うに、これも一種のコスパ的考え方で、
・値段
・そのコンテンツを享受できる時間
という二つの観点で、できるだけ安くて長く楽しめる方がお得、という単純明快な考え方である。(内容の面白さは当然)
この理論に基づき、お得度の順位をつけると、
1位 文庫本
2位 漫画
3位 映画
となる。
文庫本と漫画は同じくらいの値段だが、漫画は数十分で読み終わってしまうので、「コンテンツが楽しめる時間」は文庫本の方が圧倒的に長いから1位。
対して映画は、1,800円もするうえ(レディースデイでも1,000円)、2時間ちょっとで終わり。この理論では最もコスパが低いという結論となる。
子どもの頃の漫画
この本を見ていたら思い出したのだが、子どもの頃の漫画って、もう冗談じゃなく一冊を100回以上読んだりしたように思う。
漢字テストの点数が毎回低かった私でも、
「あのマンガのあのシーン、あのページの左端にはこんな絵が描いてあってどんな台詞があって・・・」
そういうことを思い浮かべることができるほどに一冊の漫画を読み込んでいた。
「りぼん」の発売日が待ち遠しくて待ち遠しくて、ボロボロになるまで読んだ日々。
それこそ、私の日本語の基礎は「りぼん」によって培われたといっても過言ではない。
「大人買い」で買い占めた漫画をば~っと読むのもすごく贅沢で楽しい!ことだが、子ども時代のお小遣いをためて買った漫画に、「コスパ」で右に出るものはないのかも。
大人になってからの映画
最近は、よく映画を観るようになった。
そして私は非常に影響を受けやすい性格であるため、印象的な映画を観てしまうともう
一週間は映画の登場人物のことで脳内劇場が大忙しになる。
仕事をしていても、家事をしていても、脳の一部ではいつも
「あの人はこれからどうなるだろうか?」
「私だったら許せるだろうか・・・いや無理だ」
「最後のあのシーンはどういう意味だったんだろう?」
「二人はあのあとうまくいったのだろうか」
もう頭の中は映画のことでいっぱいである。
チケット代が1,800円で二時間ちょっとで上映が終わるからとか、そういう単純なことでは真の「コスパ」は測れないことに気づいたのである。(今さら)
私のように一本の映画で一週間以上にわたって大きな影響を受ける人は、考えようによっては大変お得である。
コスパの秘密は脳内にあるといっても過言ではない。
「文庫本がもっともお得」論の崩壊
そういうわけで、「文庫本がもっともお得」論は私の心の中で最近崩壊することとなった。
単純にコンテンツを「享受できる時間」ではなく
・自分に作用している時間
・与えるエネルギー(影響)の大きさ
それが、真に大事なんじゃないかと思う。
なんとなくラクで読みやすいものをダラダラみるのも楽しいけれど、ガツンと心を打たれたり、揺さぶられたりするような何か。
それが、明日からも、待ち受けている人生を、生き抜こうとする躍動的なエネルギーに代わるんじゃないかと。
「コスパ」は受け取る人間の度量にある
「コスパ」はコンテンツや店、商品そのものの中にあって完結するものではなく、それを受け取る人の度量にも関わってくる。
「感動」というとお涙ちょうだいなイメージができてしまうが、
「心を動かされやすい」人の方が、
リスクをとっても行動する人の方が、
柔らかい心を持っている人の方が、
同じものを前にしても、受け取るエネルギーが格段に大きい。
篠田桃紅さんの著書に、「3万円だと思ってレジに持って行った鞄が30万円でびっくりしたけど買ってみてよかった」というエピソードが書かれていた。
必要なものだけ買っていてはダメなんだと。
一見無駄のようなことにもお金を使ってみることが大事だと。
「節約」「投資」「効率」「シンプル」を求めがちな日々に、大きな衝撃を受けた一冊だった。
失敗や、一見損にみえるモノだって楽しめる心の余裕があった方が、結果的には、もっと「お得」に決まっている。
短期的には「コスパが低い」食事やむしろ損するような出来事だって、自分の人生を変える一撃になったり、何度も振り返るような深い味わいを持っているかもしれない。
最後に
結婚や出産などについても「コスパが良くないから~」なんて話があってよく議論になっているけれど。
・ボリューム
・味
・値段
単純な観点で「コスパ」「コスパ」と叫び、「コスパがいい」というだけで本当はすごく好きというわけではないもの、正直ワクワクが少なくなっているものを食べたり見たりしていたら、それはものすごく「コスパが低い」生き方になってしまう。
それこそ、「コスパが最強」と思って生活していたのに、
・スカスカ
・味気なく
・安っぽい
人生になっていることだって大いにあり得る。
冒険できる、味わえる、楽しめる。
そういう人になりたいと思った日曜日の夜。
相変わらず、自信満々だ。
「いつもブログにも出演してくれる、働き者の緑くんだよ」
Sweet+++ tea time
ayako