ブラック企業が問題になっている。
今さら私がいう話でもないが、異常な長時間労働に上司の圧力、パワハラ、セクハラ、劣悪な労働環境で体調を崩してしまったり、大変な目にあっている人がたくさんいる。
「ひどい会社だよねぇ」
「本当に、改善されるといいねぇ」
夫とふたりニュースを見ながら、心を痛める日だってある。
だが人はいつだって気付かないのだ。身近なところにくすぶる火種には…
さて、突然話は変わるようであるが、とある日曜日、夫がどうしてもユニクロに行きたいと言い出した。その日はドライブをする予定だったのだが、目的地の間にあるユニクロを探して寄ることにした。
「何を買うの?」
「ちょっとベルトをね」
二人でベルト売り場を探し、いろんな革のベルトの中からオーソドックスなものを選んだ。決まった一本を持って、ごきげんでレジに向かおうとする夫を呼び止める。
「ねえ、それちゃんと長さ足りるの?」
「た…たりるよ…!」
夫は頑張ってポーカーフェイスを作っていた。だが「ポーカーフェイス」と「頑張る」ほど不釣り合いなものはない。怪しい。私は試しに巻いてみるように促した。
「余裕なはずだけど…」
夫は不安げな表情でベルトを腰に巻きつけた。
あ…
お互い息を呑む一瞬だった。ギリギリだった。ぎゅっと引き締めると最後の穴になんとかバックルをはめることができた。
ふう…
できるなら、もっと別のことで息を呑みたい。ドキドキしたい。展開の読めない映画とか、思いもしなかったプレゼントを開ける瞬間とか。少なくとも、夫のベルトの最後の穴にちゃんとバックルがハマるかどうか以外がいい。
「余裕だよ」
夫は満足げに言った。
「ギリギリだった気がするけど」
「ジャケットを着てるからだよ」
ずいぶん分厚いジャケットである。
何はともあれ無事に買い物は終わり、私たちはドライブを楽しんだ。急に気温の上がりだした春の初め、街は生き生きと輝いて見えた。
帰宅した私は、何気なく寝室の扉を開けた。そこには哀れなヨレヨレ姿となった夫の旧ベルトが転がっていた。
私はハッとした。
ここにもいたのだ…
劣悪な労働環境で苦しんできた者が、ここにもいたのだ。
異常な長時間労働。上方、下方、あらゆる方向から加えられる腹圧。いつもキャパシティを遥かに超える仕事で緊張を強いられてきた。
ベルトだって運命次第なのだ。誰のお腹に巻かれるか、フタを開けてみないとわからない。自分のキャパシティに対して余裕のウエスト、ホワイトな職場環境で気楽に働けるラッキーなやつがいるかと思えば、常に120%の尽力と緊張状態を強いられるベルトもある。
そう、夫のお腹は、現在ブラック企業である。
一番近くにいながら、見抜けなかった自分を悔いた。私の脳裏には、ユニクロからやってきた輝く新入ベルトの存在が浮かんでいた・・・
え〜と、長々と語ってきましたが、そういうわけで夫もダイエットを開始することになりました。
ベルト一本で想像が膨らんでしまうから、毎日こんなに(脳内が)忙しいのでしょうか。
Sweet+++ tea time
ayako
次回予告
明日は沖縄旅行記の第3話をお送りする予定です。(気分によっては変わります)
どうぞお楽しみに。