この季節、私にとって脅威なのは花粉ではなく確定申告である。
しかも今年は時間がない。やんちゃ坊主の王子(生後8ヶ月)が眠った時間にPCに向かい、溜め込んだ領収書を打ち込んだり諸々の書類を作って、ロングスリーパーの命の源である睡眠時間を削ったらあっという間に熱が出た。
もともと何年も風邪をひいていない健康体の私だけど、産後は案の定、しょっちゅう熱が出る。
さて、発熱中にものすごく美味しくなる食べ物をご存知だろうか?
それはゼリーである。
高級フルーツのお取り寄せゼリーなどではなく、コンビニに売っているありふれたもの。蜜柑、白桃、ミックスフルーツなどがゴロッと入ったゼリー。けっこう量が多いのに、ぺろりと平らげてしまう。むしろそれくらいしか食べられない。
熱でうなされて、もうしんどい、水分を取りたいけど水を飲むのもキツイ…そんな絶望状態で手にするこのコンビニゼリーの破壊力。凄まじく美味しい。Oh…いま私が欲してたのはまさにコレだった…
体に染み入るような甘さと酸味。ふるえる冷たいゼリーの感触。スーっと汗が引いていく。天国の食べ物。パーフェクトである。これ以上の食べ物はない。断言できる。
ハーゲンダッツのこってりしたアイスクリームじゃダメ。千疋屋の豪華なフルーツパフェなんて全然ダメ。ああ、美味しさとか幸せって、不思議だね。この、チープで素朴で定番のフルーツゼリー以上に、弱った体と心を癒してくれる食べ物なんてないのだ…
話を戻そう。とにかく私は熱でダウンしたりしつつも、確定申告の書類をすべて作り上げた。王子が眠ったあとの1時間で、ハンコを押してコピーも取った。あとは郵便局に行って発送するだけ。確定申告の期限は3月15日であるがすでに11日、ギリギリである。
翌朝、晴れやかな気持ちでベビーカーを押して郵便局に向かっていたら、iPhoneが鳴った。夫からLINEである。
「もう確定申告出した?」
嫌な予感がする。「まだだけど」と答えると恐ろしい提案が来た。
「医療費控除はayakoさんじゃなくて僕の方で出した方がいいみたい。やり直そう」
嘘だろう?
今からやり直す?
あまりにも今更な提案に絶句である。
知らん。
私は憤った。夫もふるさと納税の件で確定申告をするらしいが、そちらで医療費控除を出した方が得だという。知らん。私は病院の領収書もすべて計算し、表を作り、自分の確定申告書類は完成した。日付も書いたしハンコも押した。もう郵便局に出すだけ。やっとここまでこぎつけた。少し直すだけとはいえ、王子が眠ったあとの貴重な時間にまた作業しろというのか?知らん。
「なんで今になってそんなこと言い出すわけ?そんな細かいことどうでもいいよ。私もう完成したし、郵便局向かってるし、このまま出すからッ!」
威勢良くこんな返事を打ち込んでいたら夫から次の一言が来た。
「3万円以上、得になるみたい」
3万円。
大きいじゃないか。
悔しい。非常に悔しいが3万円は大きい。可愛いワンピースが数着買えるしおいしいもの食べれるし旅行もできる、というかもう何でもできる。宝くじは当たらない。トトビッグも当たらない。でも今夜数十分ほど作業をすれば、確実に3万円は手に入る。こんなうまい話があるだろうか?やろう。やってやろうじゃないか。
「頑張ろう!」
「一緒に頑張ろう!」
我々夫婦は一致団結した。さきほどまでの怒りや緊迫感は雲散霧消していた。喧嘩になる気配すらあったのに、LINE上ではファイト!がんばろう!的な明るいスタンプが踊っている。三万円の威力である。
この日の夜、王子が寝た後にふたり各々の書類を作り直し、印刷をしたら最後の1枚でプリンターの黒インクが切れるといった最悪のアクシデントなどをくぐり抜け、私の確定申告2019は無事に完了した。ハッピーエンドである。
そういうわけで、この数週間、私はインターネット上から消えていた。
王子が寝たわずかな細切れ時間が確定申告の事務作業にあてられるので、ブログも書けないし刺繍もできない。もうフラストレーションが凄い。これさえ終われば、もう毎日ブログ書ける!どんどん書く!刺繍もする!お店を更新するぞー!なんでもできる気しかしない謎のテンションで未来の自分にひたすら期待していた。
さて、全てが終わった3月半ば。
王子が眠ったのを見計らい、私は好きなパンを食べて美味しいお茶を飲む。至福である。あとは寝る。少しでも時間ができたら寝るに限る。
コンビニのフルーツゼリー?
もちろんあれから買ってない。千疋屋のフルーツパフェが食べたい。当然である。
ゼリーの恩は忘れ、隙あらば眠り呆ける。日常とは恐ろしいものである。
Sweet+++ tea time
ayako
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