私がとうとうメルカリにデビューすることになった発端は、古本の整理であった。
いつもはBOOK OFFのお世話になっている買取だが、たまには個人の古本屋さんに売りに行ってみようと思いついた。
20冊以上の本が入った重い紙袋を夫に持たせ、いざ見積もりへ。新刊もいくつか入っており、BOOK OFFでも1000円くらいにはなるだろうなというラインナップである。売り上げで帰りにカフェに寄ってお茶できるかなぁ(しない)、などとニマニマして見積もり結果を待っていた。
さて、店主の方が現れてこう言った。
「うちだと200円ですね、どうされます?」
・・・・・?
一瞬、聞き間違いかと思ったことはいうまでもない。だが、店主はたしかに言った。
200円
どうしよう。
私は混乱した。想像を超える安さである。でもいらない本の処分なのだ。ここまで運ぶのも重かったし(持って来たのは夫だが)、これで部屋の一角を占拠していた古本もおさらばできる。断捨離して新しい生活のスタートだよ。
なにより値段を聞いて「やっぱりいいです」なんて言うの、ケチみたいではないか。
だが瞬間、私はこう答えていた。
「やっぱりいいです」
本当にすみませんお手間をおかけしましたッ、と頭を下げて、また重い本のつまった紙袋を(夫が)持って、古本屋を後にする。
古本屋のお兄さん、ごめんなさい。
ケチだと笑われてもいい。だが仮にも自分の好きな本が全部で200円なんて、なんだか悲しい気がするのだ…
雨の中、歩いて15分くらいのいつものBOOK OFFを目指す。付き合わされている夫も無言である。いったい我々は何をやっているのか。
私は本を買うときにお金をケチったりしない方である。だが売るときはケチなのだ。新たに自分の本性を知ってしまった。東京の狭いマンションに置いておけないだけで、愛着はある数々の本が、タダ同然で買い叩かれるのが、なにやら悔しいのである。貧乏性だ…
しかし雨の中ほうほうの体でたどり着いたBOOK OFFには恐ろしい張り紙がしてあった。
「閉店売り尽くしセール」
ああ、時代よ…
だがまだ買取は実施中とのことだったので、ほっと胸をなでおろし入店する。買取をお願いしたいと言った途端、レジのお兄さんの顔がこわばる。
「買取、できないことはないんですが、こちらの店舗はもう来月閉店を予定してまして、すごく安い買取価格になってしまうんです…だから他の店舗に持って行っていただいた方がいいかと…」
「あ、そうなんですか…安いというと…」
「一冊5円とかになります」
・・・・・?
一瞬、聞き間違いかと思ったことはいうまでもない。だがレジのお兄さんはたしかに言った。
5円
これではさっきの総額200円の方がまだ高い方である。嘘だろう。
私は絶望に打ちひしがれ、でもさすがにここまで運んできて、雨のなかまた15分重い本を(夫が)持って帰るなんて馬鹿馬鹿しいと思った。時間も体力も無駄なうえに、これでは部屋が片付かない。
だが瞬間、私はこう答えていた。
「やっぱりいいです」
ケチである。もはや執念なのである。
こうして私のメルカリデビューは決まった。
正直に言おう、私は今までメルカリを避けていた。何かと手間がかかるしマナー違反の常識ない人が大勢いる恐ろしい空間として認識していたのである。それに数百円のために梱包や発送をするのがめんどくさいし…
だがもう売る場所がない。背に腹はかえられない。車のない私たちに他のBOOKOFFへ向かうなどという選択肢はないし、ネット買取は試したことがあるがこれまたものすごく安く買い叩かれることを知っている。
覚悟を決め、iPhoneでバシバシ写真を撮っては載せていく。こうなったらやるしかない!(謎に燃える)
さて、結果はどうであろう?
掲載した矢先からさっそく本は売れた。最初に売れたのは、880円で値付けした本である。手数料と送料を引いたら617円の利益。ああ、これだけでもう、総額200円も一冊5円も、超えることができたではないかッ!
だが880円はいい方で、最低価格は333円までつけている。私の本は新しいものが多いが、何年もしまいこんでいた絶対売れなさそうな夫の本も混じっているのである。333円で売った場合、利益は124円である。
だが私は歓喜していた。
先の200円と5円という衝撃価格のインパクトが、私の心のハードルを恐ろしく下げていた。1冊124円、すごいよ!
利益100円ちょっとの古本を細々と袋に入れたりプチプチで包んだり梱包作業をしている私を、夫は薄ら笑っていた。時給換算などしては絶対にいけない世界である。
果たして最初に12冊が旅立ち、7000円ちょっとの売上になった。利益にして4300円。その後、さらに本や服を売って1万円くらいの利益になった。
だが、私はメルカリに苦しめられている。
今までは「捨てる」という選択肢しかなかった数々のモノたち。メルカリデビューしてしまったことで、「まだ使えるモノを捨てる」ということが心理的に許されなくなった。罪悪感が大きすぎる。だってメルカリに出せば次に使ってくれる人がいるのだから…
ああ、この世にメルカリというものがなければなぁ。
部屋の一角をしめる「メルカリに出さなきゃいけない物BOX」が、私の心を苦しめる。
さて、そんな何でも売れるメルカリであるが、もちろん売れ残ったものもある。夫の本である。
「こんなの買う人がいるの?」というような手相占いの本も英語の参考書も自己啓発本も、夫の身にならなかったあらゆる古本が主に333円で旅立っていった。だがもう2ヶ月も並べて売れない世界遺産の本はさすがに処分である。
「この本、もう捨てるからね。333円でも売れないから」
すると夫は地団駄を踏んで悔しんでいる。
「嘘だよッ!僕の本が売れないなんてッ!みんな価値をわかってないんだ、どうかしてる…そうだもうちょっと値下げしよう、ayakoさん、300円で出してみようッ!」
いったい誰が梱包して発送するのか。
賢い人は、最初の200円で爽やかに買取してもらい、空いた時間を有効活用しているのだ。間違いない。
なお、私は明日も利益167円の本を発送します。
冷静に考えちゃ、ダメなことってあるよね。
Sweet+++ tea time
ayako
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