月を見ないで団子を食べた、風流なる十五夜日記

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9月21日、中秋の名月だった。

旧暦では8月15日だから、十五夜ともいう。

今年は八年ぶりに中秋の名月が満月に当たるとかで、なんとなく朝からツイッターも盛り上がっていた。

「よし、今日は白玉団子を作ろうッ!」

布団に横たわったまま意気揚々と決意したのはもちろん、私が家庭的で、季節の行事を愛する丁寧な暮らしを実践しているからに他ならない。間違いない。

白玉粉の賞味期限が切れたからではない。

*・*・*

 

このブログの読者の皆さんは覚えておられるかもしれない、夏の白玉事件を。

sweeteatime.hatenablog.com

要するに孤独に白玉団子を作った話であるが、そもそも孤独というのは、「誰かと一緒」というシチュエーションを想定していたからこそ感じるものだ。

二脚の椅子を用意したのに自分しか座っていないから違和感がある。はじめから一脚、座り心地最高なロッキングチェアを用意して、ひとりゆったり腰かけるのだ。そこに「孤独」など入り込む余地は一ミリもない。

そうだろう?

*・*・*

 

人間は学び、日々進化する。とりわけ私のようなレベルとなるともう、赤子もびっくりのペースで三十三歳の今も日々成長し続けている。

過去の教訓を叩き込み、もちろん同じ過ちなど繰り返さない。

したがって、ひたすらメダカを眺めたり、スーパーボールを山手線に詰め込んだりしている男たちに声をかけることなく、ひとり淡々と昼下がりのキッチンに立った。

テキパキと100グラムの白玉粉と90mlの水を用意する。

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誰かのために団子を作るのではない。今宵の満月のために、賞味期限切れの白玉粉のために、いや、私は私のために作るのだ。人生のハンドルは自分で握る。助手席に座ってはいけない。

ところで白玉粉の説明書には、水の加え方について「耳たぶくらいの柔らかさ」を目安にせよと書いてある。白玉団子を作りながら、日本中で多くの人が耳たぶの柔らかさについて考え悩む日、それが中秋の名月である。

ちなみに私はといえばもちろん「あ、ちょうど耳たぶの柔らかさになったッ!」と即座に手を止めて最高のタイミングで団子をこねられましたよね。言うまでもない。

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無駄のない動き、そのうえ二回目であるから団子も高速で完成した。

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同時に沸かしておいたお湯が沸騰したので、落とし入れる。

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しばらく眺めていると、続々と団子が浮き上がり、私のテンションもわかりやすく急上昇する。

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二分待ったら、引き上げる。満月を掬い上げるような心地になる。

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いつものイワキの耐熱容器に入れる。月が並んでいる。可愛さしかない…

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え、なぜ同じ写真をまた載せてくるの?と思われたかもしれないが、容器に水を注いだのがわかるだろうか(団子がガラスに反射して一層かわいい)

ちょうど浸るくらいに水を入れておけば、白玉団子は数時間ほど冷蔵庫で保管できるらしい。

食材ストックの中に茹であずきの缶詰もきな粉もあるし、これでもう今宵のお月見準備は完璧である。あとは満月さえ見ればよい。

もう一度言おう、満月さえ見ればよい。

*・*・*

 

私たちは弱く、偏った思考回路を持った哀しき生き物だ。

なぜだろう、いつだって気づけば、有るものより無いものの方に想いを馳せている。持っているものより失ったもの、未だ手にしていないものに執着する。

足りないものを数えるのは容易い。だが、幸福は遠のくばかりである。

パズルの完成にこだわり、足りないピースを嘆いている場合ではない。あるものを数え、感謝し、強く生きるのだ。そこに幸福はある。

*・*・*

 

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かくして深夜22時、月を見ることなく「お月見」が決行された。

子どもを寝かしつけたあと、想像力だけで脳内に美しい満月を描き、妄想しながら、高速で団子を食べる会である。食卓に団子やあんこを並べた瞬間、団子作りにまったく興味のなさそうだった夫がすみやかに着席した。すべては平常運転だ。

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なんだろう、前回より格段に美味しくなった。たった二回で白玉団子の腕を上げた。さすが私である。団子を丸めただけでここまで誇れるのも、さすが私である。

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ああ、やっぱり和のお皿や湯呑みが必要だ…物欲にかられながら食欲を満たし、私の風流な十五夜は更けてゆく。

明日はもちろん、こんな会話をしたいと思う。

「八年ぶりの満月、見事でしたね…!」

もし誰かに会うことがあれば。

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そんな引きこもり生活全開の私であるが、キッチンと食卓で、季節行事に果敢に挑んでいきたい。

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Sweet+++ tea time
ayako

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