世の中には、勘違いしたままでいた方が幸せなことがある。
私は睡眠中、凄まじいいびきをかく。
多分外見からは想像できないような、泥酔したおじさんのいびきみたいな、妹曰く「ヘリコプターの離着陸の音」みたいな。とにかく誰もが恐れおののくレベルのいびきである。
年末年始、実家に泊まると、母妹私で川の字になって寝るんですが、夜中に隣からものすごく蹴られる。
「信じられないほどうるさいいびき、すっかり忘れてたわ。思いっきり蹴ると治るんだけどね」
暴力的な妹である。
このいびきは昔からなので、私は長年「誰かと一緒に暮らすなんてムリだろうな〜」と思っていた。それがもう、結婚5年目である。夫はいびきのことを何も言わない。
「私いびき凄いでしょ…?きっといつもうるさいの我慢してくれてるんだよね…?」
恐る恐る聞いてみても、「なんのこと?」という感じで夫は首をかしげるだけ。
なんてなんて、優しい人なんだろう。
4年半、私はそう思い続けてきたのだった。
話は突然変わるようであるが、出産前、不安に思っていたことがある。
夜、赤ん坊が泣いたときに、自分はちゃんと気づいてお世話をすることができるのだろうか?起きれるのだろうか?
産後は夜も2〜3時間おきに赤ちゃんが泣いたりしてお世話が大変で…というような話はよく聞くが、そもそも私はiPhoneの目覚ましも完全スルーで眠り続けることができるのだ。
6:30、6:40、6:50、7:00、7:10…という10分刻みの目覚ましをセットして、しかし実際に目が覚めたら9時前とか、そんな日常を送る女なのだ。
赤ん坊が泣いているのに気づかずに爆睡してしまい「3時間おきって言われたのにもう6時間も経ってるッ!」と震える夢をよく見たものである。
しかし、そんな産前の心配もすべて杞憂に終った。
赤ん坊が泣けば、すぐに目がさめる。どうしたって起きる。嫌が応にも眠りから引き戻される。
それは母性とか子どもを守る気持ち云々ではない。
赤ん坊の泣き声というのは凄まじいのである。あんなに小さな体で、サイレンのごとく泣くとは誤算であった。
ちなみに夫は起きない。王子がどんなにけたたましい泣き声をあげようと、体をよじらせて絶叫しようと、鼓膜が破れるッ!という勢いで泣きわめこうと、とにかく起きない。
最初はひとりで王子をあやしながら、「まさかこの人寝たふりをしてるんじゃ…?」と疑ってすらいた。それくらい不自然だった。だがよくよく観察すると、夫はすぐ耳元で赤ん坊が絶叫している状況で、本当に熟睡しているのだ。すやすやと心地よさそうに寝入っている。
その平和な寝顔を見た私はすべてを理解した。
私のいびき、本当に聞こえてなかったんだ。
この4年半の謎がすべて解けた瞬間だった。
凄まじいいびきをかく私に、ぴったりの人を神様はおくってくれた。ひとりで赤子をあやす夜があったって、文句なしである。
Sweet+++ tea time
ayako
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