オトナになったと思う瞬間

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女友達のお誕生日お祝いをした。彼女は会社勤めをしていたころの新卒同期で、つまり出会ったときはお互い22歳だった。

「信じられないよね。22なんて今思うとめちゃくちゃ若いよ」

一年間の現場研修、会社のオジサン達との謎の飲み会をこなした同士でもある。柏のスーパー銭湯で年越しをしたこともあったなぁ。22歳から29歳、環境が変わっても、とにかく気の合う友達なのです。

お誕生日お祝いということで毎回張り切ってお店を探すのだが、今年は日本橋浜町のイタリアンにした。淡いレモン色の壁が秋の夕闇にぱっと目を引く、小洒落たレストラン。お料理も細やかでお酒も美味しい。

*・*・*

 

私も彼女も流行りの店やブランドなどに疎いのは相変わらずであるが、それにしても大人になったなぁと振り返る。この7年の間、もちろん働いているわけで収入も上がり(私は低め横ばい)、おしゃれな店も少しは知ったし(今回も食べログ頼み)、買える服のランクだって上がった(私はユニクロ無印)。

都心のオフィスに通勤している彼女と比べ、家にこもって謎の活動をしている私は明らかに大人になっている感が薄い気もする。だが、この数年の変化について他愛もなく喋っているうちに、勝敗を分ける決定的問題にぶち当たった。

PASMOにいくらチャージするか?

このPASMO(交通電子マネーカード)へ一回にチャージできる額が、オトナ指数を決めると言っていい。ちなみに私、OLだった頃も常に1000円、多くて2000円。別にお金がなかったわけではないが、心理的に多額をチャージできない。だからしょっちゅう改札で弾かれる。「あ、ごめんチャージしてくる…」という間抜けな一言を残し、また千円札を挿入。そのときは通過できるがまた近いうちに弾かれる。この繰り返しである。

こんなに時間を無駄にする、非効率な方法があるだろうか?

だが仕方ない。PASMOへ千円札以外をチャージできるのはオトナの証。20代前半のコドモにはまだまだ敷居が高かったのだ。彼女より9ヶ月先に29歳になっていた私は誇らしげに言った。

「私、毎回1万円チャージしてるよ、いま」

ものすごくドヤァっとしていた。だって一万円。PASMOに諭吉である。これがオトナの女の証でなくて何であろう? PASMOに一万円をチャージできるということは、少なくともお財布には一万円以上が入っているわけで、これぞオトナ財布、オトナチャージ。端から見たら馬鹿丸出しであるが私は本気で誇らしかった。すると彼女もうわぁ…と羨望のまなざしでこちらを見つめるではないか。

「すごい…!私いまも1000円とか2000円だよ」

この勝負、勝ったッ!

「ま、私も昔はそうだったけどね…」

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ナイフとフォークをカチャカチャやりながら、秋刀魚とアボカドのテリーヌやら牛ほほ肉のトマトソース煮込みなどを、得意気に口に運ぶ。オトナ勝負を制したayakoさんの、余裕と輝き。

赤ワインも堪能し、食事はつつがなくデザートへ。彼女はティラミス、私はジェラートを頼んだ。ジェラートの種類に「小豆」と書かれているのを「こまめ」と読みそうになるなどといった細かいアクシデントはあったものの、29歳誕生日のオトナディナーは美しくフィナーレを迎えた。

*・*・*

 

「お誕生日なんだから、今日は私に払わせて」

ウェイターにお会計の合図をすると、伝票とともに美しい銀の器が運ばれてきた。ここにお金を置くのだろう。ごちゃごちゃとお札や小銭を並べるのはカッコ悪い気がしたので、クレジットカードをすっと一枚置く。カッコイイ。完全に決まった。

「本当にありがとう…!」

友達も微笑んでいる。

だがその数秒後、ウェイターを待ちつつ、何気なく銀の器をもう一度見た私は自分の目を疑った。

瀟洒な銀皿の上に乗っているのは、正真正銘のPASMOだった。

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純白のクロスの敷かれたテーブルの向こう側、同時に気付いた女友達も爆笑していた。

「全然変わってないね、最高だね、何ヶ月通っても更衣室の扉を毎回間違えてたもんね」

オトナになるって、難しいですね。

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Sweet+++ tea time
ayako

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