会話が最高に弾まない二人

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「悪い人じゃないんだけどね…」

このあとに続く言葉はだいたい「一緒に話しててなんか楽しくないの」「どうも会話が弾まなくて」と相場が決まっている。

優しいしデートコースは完璧でお会計もスマート、背も高いし顔も悪くないし誠実でほんといい人なの!

しかし話がつまらない。

女友達の恋愛相談である。

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けっきょく、すぐ機嫌悪くなるうえデートは近所の居酒屋オンリーお会計も10円単位で割り勘、背も高くなければ顔もイケメンじゃないのに女癖は悪い、という正反対の男と付き合っていたりする。むしろ長所はどこにあるんですか、という男である。

「でも一緒に話してて楽しいんだよね〜」と本人はまんざらでもない感じ。

「一緒にいて話が弾む」というのは、女にとってかようにも大事な項目なのだ。実に不思議なことである。

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「話がはずむ」と言えば、先日、最高に弾まない会話をした。

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4月の夕方、すっぴんマスクにジャージという最低ランクの装いで東京下町を闊歩していた。歩いて10分のジムに行くためである。不思議なことに、この出で立ちで歩いていると、ほぼ必ず話しかけられる。新手のナンパではない。不動産の勧誘である。

着替えと靴を入れたビニールバッグの取っ手は色あせ、マスクの上からギョロッと大きな目を動かしジャージでずんずん歩く女。このどこに「家が買えそう」なオーラが出ているのか聞いてみたい。強いて言えば、歩幅が大きいくらいである(歩幅で家が買えるなら、街は大股歩きであふれるだろう)

その日もスーツを着てチラシを持った男の人が近寄ってきた。私は毎回急いで道路を渡ったり、「家は持ってますか」「はいもう買いました」という高速の会話で終わらせるように神経を尖らせている。もちろん家など買っていない。猫が飼える賃貸マンションに引っ越すというのが目下の一大プロジェクトである。

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だが、その日はあまり無下にできなかった。4月の大きな交差点、話しかけてきたのが見るからに新人君だったからである。

「すみません、僕、この春に入ったばっかりなんですが、話だけでも聞いてもらえないでしょうか」

このセリフで切り出すと、立ち止まってくれる人が多いのだろう。案の定、私もその一人となった。なぜなら私も新入社員だったころ飛び込み営業をよくやっていて、道端でおばあさんに商品を買ってもらったこともあるのだ(私が売ったのは何千万の家ではなく、数十円の商品だが)

「ちなみに今って、家賃はいくらくらいですか?」

私はしぶしぶ答えた。しぶしぶ、と言っておきながら、結婚してて2DK・45平米の部屋に二人暮らしということまで喋っていた。おしゃべりな性格が完全に災いしている。

「僕は新人なんでまだ何も売ったりとかできないんですが」と枕詞をつけてから、新人君は不動産のことについて何か語り出した。

私は信号が青に変わるのを待っていた。これ以上お互い無駄な時間を過ごしても仕方あるまい。期待させてもいけないし。

「すみません、でも私、買えないんですよ」

すると新人君は恐縮して言った。

「大丈夫です、僕もちょうどまだ売ることはできないんで!」

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信号が青に変わって歩き出すと、新人くんも隣を歩きながら懸命に不動産トークをしてくる。

「ただその、実はマンションって今が買い時って話なんですよ…それというのも…」

百歩譲っていくら買い時であろうと、こちらはまったく買い時になる気配はない。なんせ、『お金の増やし方』みたいな投資の本を熱心に立ち読みしていたら、夫に「まずは元本だよ!ayakoさんには元本がないッ!」と叱咤されたばかりである。

私は勇気を出してもう一度切り出した。

「私、ほんとに買えないんで、すみません…」

「安心してください、僕もちょうど売ることはできないんで!」

最高に噛み合っていなかった。だいたいなぜそんなに自信満々なのだ。

家を買えない人と家を売れない人が不動産の話をする。これはおそらく、私の女友達も経験したことのないレベルの「弾まない会話」である。

数秒後、しびれを切らした私は言った。

「ほんとに貯金ないんでッ!お仕事がんばってくださいッ!」

すっぴんマスクのジャージ女は、貯金がないことを東京の大通りで公表し、猛スピードで走り去ってゆくこととなった。

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身綺麗にしている日より、すっぴんの日に限って話しかけられるって、実に不思議だよ。

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Sweet+++ tea time
ayako

次回予告

明日こそ銚子旅行記の最終話を書く予定。お楽しみに〜!

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同じくすっぴんの日の悲劇である。

sweeteatime.hatenablog.com