魅力と正しさはイコールではない。チェット・ベイカー「ブルーに生まれついて」

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友達の恋愛相談を聞いていると、「なんでそんな男と」の一言で片付けられてしまうことは非常に多い。

なぜ皆そんなダメ男と付き合っているのか!?

ドラマを見ていて、「絶対こっちの人とくっついたほうが人生うまくいくよ!苦労しないで済むよ!」とすごく思うのにだいたい主人公は厄介な男の方とくっついてしまう。現実もそう。

う〜ん、歯がゆい。しかし、魅了と正しさはイコールではないのだ。

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繊細で弱い人、流されやすい人というのがいる。

輝くような芸術的才能に恵まれた人は、そうした「弱さ」や「流されやすさ」もセットで与えられている場合が往々にしてある。

そしてたいていの場合すごくモテる。この「モテる」というのは異性はもちろん、同性も含めて周囲の人を惹きつけるものがあるんだよなあということ。

才能も弱さも含めて、放っておけない何かあったりする。けっきょく常に誰かが手を差し伸べてくれて、破滅的であれ何度も返り咲きながら振れ幅の大きな人生を歩む。

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大好きな名画座、飯田橋のギンレイホールで映画を観た。

 

『ブルーに生まれついて Born to Be Blue』

これは、名ジャス・トランペット奏者チェット・ベイカーの映画である。

1950年代、一世を風靡したチェット・ベイカーは、ジャス奏者がよくあるようにドラッグに溺れ、繰り返し逮捕され、めちゃくちゃになっていく。1970年、ドラッグ絡みのトラブルで麻薬の売人から顎と前歯を折られ、とうとうトランペットが吹けなくなってしまう。

 

 

この映画は、そんな絶望的状況からチェット・ベイカーが立ち上がるまでの数年間が描かれている。仕事を失い、生活保護を受けながらガソリンスタンドのバイトをし、入れ歯を手に入れ、文字通り血のにじむ努力と練習によってトランペットでふたたび表舞台に立てるようになるまでの数年間。

そんな彼をずっと献身的に見守る恋人ジェーンを、最後の、再起がかかった、最も大きなプレッシャーにさらされるライブの直前、ふたたびヘロインに手を出すことで裏切るまでの数年間でもある。

「あなたがドラッグをやると、自分を触る時の仕草でわかるわ」

と映画の中で恋人ジェーンは語る。

そして最後のライブのシーン、彼は歌いながら、独特の仕草で自分の顔を触るのだ。それを後ろで見ていたジェーンが、涙を流して去っていくという悲しいラストシーンがとにかく心に刺さる。

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さて、面白いノンフィクション映画を観たあとは毎回のことだけど、私のiPhone上において、wikipediaからのインターネット検索大会が開かれた。実際の人物はどうだったんだろう?どこらへんが映画の脚色だったんだろう?

そういうのって、どうしても知りたくなってしまうんですが、皆さんどうでしょう?

結論から言えば、私が最も感情移入してしまった恋人ジェーンは、実在しないのだった!実際のチェット・ベイカーはもちろんモテ男なのだが、天使のように彼を支えたジェーンという女性は完全に架空の存在らしい。

彼は最後のチャンスを掴みふたたびトランペット奏者として復活するが、生涯ヘロイン中毒から抜け出すことができず、最後はアムステルダムでホテルの窓から転落して人生の幕を閉じるのである。

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メインの登場人物に、ジェーンのような透明で優しい架空の人物を入れたのは見事だなぁと思った。

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どんな破滅的な人生であっても、数年間、いや人によっては数ヶ月、数日でも、人生が明るく正しい方向に向かっている時期というのがある。

周りの人に恵まれて、仕事や体調、精神状況も含め、嵐の前の静けさのような穏やかな時期。

波乱な人生を送ったひとのそんな一瞬は、やっぱり美しい。

実際のチェット・ベイカーはもっと「ろくでなし」度が高いのかいもしれないが、端的に言って、すごくいい映画だった。

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私はダメ男好きの女友達のことがわからない。

でも確かに、「正しさと魅力ってイコールじゃないんだよなぁ」と、ハッピーエンドじゃないのにとびきり美しく心揺さぶる映画を見て、あらためて唸ってしまった。

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今さらという気もしなくないが…

映画を観て、いろんなことを考える時間がまた、最高に楽しいよね。

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Sweet+++ tea time
ayako

 

次回予告

明日こそ、沖縄旅行記の第4話を書く予定です!

今日は、あまりにも素敵な映画を観ちゃったので、突然の映画日記になりました。

 

今日の映画

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