一年前に神楽坂のフレンチレストランで食事したときの話を夫としていた。
「あのとき、となりの席の男の人が女の人にティファニーをプレゼントしてたじゃん?」
私はそう言いたかった。そう言っているつもりだった。頭の中にはティファニーの水色のブランド箱がちゃんと描かれていた。
だが現実に発音されたのはこうだった。
「あのとき、となりの席の男の人が女の人にティファールをプレゼントしてたじゃん?」
「ティファール?」
あの、電気ケトルである。瞬時に沸騰して熱湯を作り出す魔法のような機械!あれをプレゼントしてたんですよ。男が女に!もしかしてプロポーズ…?
違う。そんなわけがない。ティファールには毎日お世話になっていて足を向けて寝れない存在であるが、それにしても言わせてもらおう、神楽坂のフレンチレストランで男が女にもったいぶってティファールを渡していたらコントである。
またある観光地でのこと。計画性と効率性を何より重んじる私は、重い荷物を持つ夫にこう提案していた。
「まず荷物をコインランドリーに入れてから回ろうよ」
これじゃあ回っているのは荷物である。
コインロッカー⇄コインランドリーは高確率で間違える。したがって、「洗濯物をコインロッカーに持ってこう」という謎の提案も、当然日常的になされる。
極め付けは、定番のエレベーター⇄エスカレーターであろう。
大人になっても未だにわからない。もちろん、一呼吸おいて冷静に考えれば、わかる。「エスカレートする」という動詞を思い浮かべて判断する。でも瞬時にはわからない。
先日年下の友人と話ていたとき、「エレベーターを待つのほんと苦手なんですよ〜」と言われてどっちの話をしているかわからずパニックになった。
だいたい動詞が「待つ」であることからして分かりそうなものだが、このワードが出てきた時点でとにかく脳が緊急地震速報を出してしまう。揺れはおさまりそうにない。
混乱した私は恥を忍んで質問した。
「エレベーターって、どっちだっけ?上がる方?」
どちらも上がるし下がるでしょ。
あさってには29歳になるというのに。
ちなみに、結婚式の引き出物で手に入れた私のティファニー箱は、裁縫箱になっている。
「みんなの言い間違えを、教えてほしいよ」
Sweet+++ tea time
ayako