選ばれないって、こんなにもつらいこと?/ ロシア語の本と能町みね子『お家賃ですけど』

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BOOKOFFに本を売りに行くと、時々言われる一言。

「こちらはお値段がつかないのですが、どうされますか?」

 もうこいつは寿命だよなあって感じの黄ばんだボロい文庫本とかで、言われる一言。

「こちらはお値段がつかないのですが、どうされますか?」

そりゃあそうだ、私だって昔古本屋で買ったやつでめちゃボロだったのをさらに折り目つけちゃったもんなあ、なんて一冊なら私は言う「あ、もういいです」

そりゃあそうだ、どこのBOOKOFFにも大量に出回ってる自己啓発本だもんなあ(勢いで買っちゃって後悔)、なんて一冊なら私はいう「あ、もういいです」

でもこないだ初めて、こう言った。

「あ、持って帰ります!」

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それがこの2冊である。

厳密には2「冊」ですらないが、どちらもロシア語で書かれたもの。

左は神田のロシア語専門書店で買った子ども向けの本で、右は私が大学時代に気に入ったロシア語の童話をコピーしたやつ。気に入ったのは多分、ストーリーじゃなくてこの絵。だからわざわざカラーコピーしてるんだと思う。

こんな「BOOKOFF的には1円の価値のないもの」を、私は前回の断捨離祭りでぽいと捨てる本のかたまりに入れちゃったみたい。

何が言いたいかというと私が間抜けでドジな性格であるということではなくて(それは言うまでもない)、BOOKOFFで売れなくても、この2「冊」は十分にイケてるってこと。そう、私にとっては、すごくイケてる!

誰からも選ばれない部屋が、彼女にとっては宝物だった話

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話は突然変わるようだが、最近読んですごく面白かった本。能町みね子さんの『お家賃ですけど 』である。

これは著者の能町みね子さんが牛込神楽坂で見つけた”最高の”物件「加寿子荘」で過ごす日々が書かれた自叙伝風小説。

築40年以上、変わった間取り、しかも下宿風。最初の部屋は風呂なし。洗濯機置き場なし!もちろん畳でフローリングなし!

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この「なしなし」尽くしの現代では全然喜ばれない条件が、古いもの好きな能町みね子さんにとってはもうぐっとくる、最高に「イケてる」物件だったわけ。

でも世の中では売れない。問い合わせがあったって絶対売れない。というわけで、不動産さんも紹介するのがもはや面倒くさくなっているらしい。

問い合わせみても、この調子なんである。

「すごくねぇ、すっごく、古いですよ……」

「洗濯機置けませんけど……」

「玄関は大家さんと共同ですよ……」

でも能町みね子さんは思うのです。

ええ、ぜんぶ分かってますので。

そう、実は最初22歳のころ、能町みね子さん、ここに男として住んでいたのだ。諸々ありまして、1年9か月を経て戻ってきたわけである。今度は別の名前で、女として、オーエルとして。

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再び帰ってきてしまうほどに、この建物を愛していました。大家さんの加寿子さん(推定80歳)のことも。そこに住む人々の気配も。観光地としてじゃない「牛込神楽坂」の町も。すべてをとても愛おしく思ってた。

そういう日々の話。

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この本はすごくいいと思う。

古い建物とか古い町を愛する気持ちが、とにかく心地いい。

おっと、話が逸れてしまった。
何が言いたかったかというと、

「フローリングにユニットバスの、小綺麗なマンションが好き」な人たちには全然売れない部屋。それが、彼女にとっては最高に「イケてる」物件だった

ってこと。

選ばれないって、こんなにもつらいんだっけ? 

「益々のご活躍をお祈り申し上げます(ウチの会社にはいらん)」

「ごめん、友達のままでいよう(付き合うのは無理)」

「結婚はまだ考えてないよ(君とはするつもりない)」

「この仕事は⚪︎⚪︎君(同期)に任せたい(君じゃない)」

悩みって無数のヴァリエーションがあるけど「選ばれない」系はその中でもけっこう大きなカテゴリーだと思う。

バイトの面接ひとつ落ちたって、ちょっと笑えるくらい落ちむのが人間だ。まして行きたい会社とか仕事任されたい上司とか好きな人とか結婚したい人から、どうやら「お前じゃない」と言われている。

あれ、私ってそんなに価値ないんだっけ?

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まあ落ち着いて、だいじょうぶ。

あなたはBOOKOFFで値段がつかなかっただけ。

「どうされますか?」

そう聞かれてるだけなんだ。

もちろん「あ、もういいです」なんて絶対言っちゃあだめだ。自分を捨てるまえに、他の古本屋さんを見なきゃ。不動産屋さんがどんなに投げやりだって、気にすまい。絶対ここに住みたい!という人が、あとで必ずやってくる。

 

さて、今日私はなんの話がしたかったのか?

別に「あなたにはあなただけの魅力がある」なんて甘い台詞を言いたかったわけじゃない。

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ただシンプルに、このロシア語の本と本ですらないコピーは、私にとっては最高に「イケてる」代物だってことだ。たとえBOOKOFFで1円の価値もなくても、他に引き取ってくれる古本屋が一軒もなくても、ね。

そういうの、あなたにもきっとあるでしょう?

 

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もちろん緑くんはイケてる。安心していい。(買取先は言うまでもなくどこにもないだろうけどね。ここにいたらいいさ。)

 

今日の一冊

お家賃ですけど (文春文庫)

古い建物、町歩きが好き。そんな私にはたまらない一冊でした。夏は、やっぱり、古い喫茶店でクリームソーダと読書だよね。