雨が続くので、家の近くのコインランドリーへ行ってきた。
夕闇に沈む住宅街に、そこだけぽっと明かりが灯っていて、洗い立ての衣類の優しいふんわりとした匂いが外までゆっくりと流れている。
仕上がるまで小さな店内で待っていた。
乾燥機の回る音と、流れるラジオの音。
洗剤の優しい香り、オレンジ色の淡い照明。
大好きな本をぼんやりと眺めながら、すごく温かい気持ちに包まれてしまった。
ああ、これが幸せの瞬間なんだなぁ。
神様がふっと降りてきたように、そう思ってしまった。
驚いたことに、それは大勢のひとと一緒にいるときや、何かお金をかけて豪華なことをしている瞬間ではなく、
ただひとり、生活のことをしながら、素敵な装丁の本を読んでいる瞬間。
「幸せ」というのは、普段私たちがイメージしているものとは、少し違う姿をして、日々訪れているのかも。
毎日、ノックの音に、気付けているでしょうか?
【ポケット版】すてきなあなたに01 ~ポットに一つ あなたに一つ~
暮らしの手帖社から出ている「すてきなあなたに」シリーズ。
外側の装丁はもちろん、ページを捲るたびに美しいデザインのイラストが出てくる。
そして、時間の流れがとまり、心が自由になる美しい文章。
インターネットの世界では、乱立する情報群から少しでも目立ち、クリックしてもらうために、日々いろいろな趣向が凝らされている。
どうしても「毒」や「攻撃性」、「わかりやすいインパクト」のある文章やコンテンツが選ばれやすかったりするのは事実だろう。
もちろん、それはそれで面白いものはたくさんある。
私は「インターネットな世界」が大好きだし、その可能性と楽しさを日々享受している。
けれど、それでも。
インターネットの世界とはまったく性質の違う場所だからこそ生まれる「美しい本」や「美しい文章」というのは、確かにある。
それは、たくさんの単語を盛り込んだインターネットの文章とは違う、小さなお皿にのったデザートのような、儚さや詩的なもの。
「検索」という窓から覗き込むことのできない、静かな草原に咲いて揺れている小さな花みたいなもの。
今日の夕暮時の、あのコインランドリーのお店の中で感じた優しい心地。
それはきっとiphoneの画面に映されるのではなく、紙に印刷された、あの美しい文章からそっと伝わってきたもの。
生活すること、暮らすこと、その中で降って来たもの。
たまには、素敵な一冊を、眺めてみたい。
「幸せ」のノックの音に、気付けるような心の静けさで。
【ポケット版】すてきなあなたに01 ~ポットに一つ あなたに一つ~