夏の記憶と水餃子

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夏ってこれだなとドアを開けた瞬間に気づく日が来る。温度も、日差しも、何より夏の匂いが濃厚で、初夏のそれとは全然違うんだから不思議だ。

30度を超えた6月の土曜日、私はドアを開けてああ、と思った。今年も来たのだ、夏。愛すべき季節。

夫とバスを乗り継いで、あじさい祭りなるものに出かけた。詳しくはまたお散歩日記を書くつもりだけど、とにかく場所を間違えてしまい、延々と川沿いを歩くはめになった。川沿いといえば聞こえはいいけど、炎天下、同じ風景がつづくうえに目的地がよく分からないという地獄の散歩でもある。

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蛇行する旧中川の水面は青緑色で、ときどき激しい水飛沫が上がり、黒く光る大きめの魚が飛んだり跳ねたりするのを見た。

地下鉄の入口も店もコンビニも何もないところを歩き続けて、やっと視界の端に現れたセブンイレブンの看板に歓喜した。川沿いから車道に出て休憩する。

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夏だね。

家の近くのコンビニにはない駐車場。炭酸水の向こうに、まだちょっと初々しい入道雲が見えた。夫は隣でフランクフルトを頬張っている。

同じ東京の、同じ江東区なのに、どっか遠くの街に来たみたいだ。

あちこちで冷たい飲み物を買い、何度も何度も汗をぬぐい、歩き、疲れて、なんとか紫陽花の咲く場所にもたどり着けた。

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一軒だけ見つけたお蕎麦屋さんで天ざるを食べ、またバスを乗り継ぎ、歩いて帰る。ヘトヘトの、絞った雑巾みたいになった夕方。

汗をかきすぎて、まだ明るいうちにお風呂に入ったら、夏だなぁ、これは子どもの頃の夏だなぁと嬉しくなる。

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お風呂に持って入った文庫本。昔に読んで、二年くらい前にまた近所の古本屋で見つけて買い戻した『村上朝日堂』。

付箋が貼ってあるページをめくってみて笑った。二年くらい前の自分が何を思ってここを選んだんだのか?

「夏について」というエッセイだった。

夏は大好きだ。太陽がガンガン照りつける夏の午後にショート・パンツ一枚でロックン・ロール聴きながらビールでも飲んでいると、ほんとに幸せだなあと思う。

三カ月そこそこで夏が終るというのは実に惜しい。できることなら半年くらいつづいてほしい。

そんなふうに始まる短いエッセイ。私が選ばないわけがない。

これは今年初めての夏の日、夕方のお風呂の中で読むのにぴったりの文だなぁと、付箋を貼っておいてくれた二年前の自分にほくほくする。

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子どもの頃の夏といえば、外で遊び、遊び疲れて汗まみれで、まだ明るいうちにお風呂に入った。浴室は二階にあって、小窓から薄青い空に浮かぶ白い月が見えた。心地よい疲れを洗い流して階段を降りると、母が熱々の水餃子をお皿にたっぷりのせて出してくれる。夏の早い夕ごはん。その美味しいことと言ったら。

大人になっていろんなお酒も飲めるようになったし、東京のお洒落な店もたくさん行ったりしたけど、あれ以上に贅沢な時間も食事もない気がする。

*・*・*

 

台所に立つ気力はゼロだったので、お風呂から出ると中華料理店の出前を取った。夫と覗き込んだiPhoneの画面から注文した2018年の水餃子は、白いプラスチックの容器にこじんまりと6つ並んでいた。

透明の耐熱皿に山盛りだった子どもの頃のそれとはだいぶ違う。割り箸で食べる水餃子。美味しいね、今日はほんとに疲れたね、それにしても暑すぎだね。今は今の幸福を噛みしめるし、今年は今年の、夏がくる。

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今回はほとんどiPhoneで書いてみた。読むのはiPhone、書くのはPC派だったけど、いろいろ試してみたいな。

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Sweet+++ tea time
ayako

今日の一冊

レトロ懐かしい感じの短いエッセイがいっぱい入っていて、だらだらと読むのが楽しい文庫本です。おすすめ。

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