「主役になりたくない」と夫は言った。
なんの話かというと、飲み会である。職場で自分の歓迎会とか送別会を開かれるのが、苦痛でたまらないそうである。
「会社の飲み会なんてそもそも全部行きたくないけど、自分が主役のなんて最悪だよ…」
とにかく注目されたくない。飲み会も徹底した脇役としてひっそりと終えたいという。
自分の歓迎会が近づくにつれ、「全員欠席してくれればいいのに」とか「明日突然インフルエンザにかかりたい」などと口走る。学生時代、テスト前日に「学校が爆破されれば…」などと思っていたらしいがそのまま大人になっている。
学校は爆破されないし、夫は一度もインフルエンザにかかることなく30代に突入している。
昨年、転職のため開かれた自分の送別会では、一次会が終わるやいなやトイレに隠れ、二次会に巻き込まれるのを回避できたらしい。「目立たず帰れてよかったよ〜」ホッとしたしろくまスマイルで帰ってきた。
体は大きいのに、とにかくシャイというか、注目されたくない夫なのである。
話は突然変わるようであるが、先日、夜中にものすごく面白いブログを見つけてしまった。書いてある内容も、写真も、好みの文房具も紹介される食器も、とにかく趣味嗜好がドンピシャ。
この記事も面白そう…!次も気になる!これ可愛い〜!
真夜中にソファーに転がってiPhoneの画面を覗き込む私の顔は最高に生き生きしていたと思う。次から次へと記事をクリックしては読みあさってしまった。
いったいどんなブログかって?
もうお分かりだろう…
自分のブログである。
ふとしたときに過去記事を読み返すと、悲しいかな自分で書いたことをすっかり忘れているため、純粋に新鮮で面白いのである…。数年前の自分が書いてるので、好みの文房具も紹介される食器も、とにかく趣味嗜好はドンピシャ。当たり前である。
自分で書いて、自分で読んで、自分で笑い元気をもらう。
地球上のありとあらゆる環境問題が秒で片付くレベルのエコである。平和である。言い換えると阿呆でもある。
「自分のブログが面白くて昨日の夜読むの止まんなくなっちゃった〜」などと友達に言われたらどうだろう。「おいおい、どんだけ自分好きなんだよ…」そうドン引きされてもおかしくない。
我ながら自分のことを恐ろしく思った。
だがそんな平和で阿呆な人物が、もう一人いたのである。
「ねえねえ、ayakoさんのブログに『夫』っていうタグはないの?」
日曜の昼、ソファに寝ころがってiPhoneを眺めていた夫が言った。真面目な顔で確定申告の書類を作っていた私が盛大に吹き出したのは言うまでもない。
「タグってカテゴリーのこと?」
「そうそう」
私のブログには一応カテゴリーがある。
お買い物日記、読書日記、映画日記、各地への旅行記など、興味のあるところから読んでもらえるように記事を分けているのだ(PCでもスマホでも見れる)
ここに「夫」というカテゴリーとして入りこもうという大胆な目論見である。
「あるわけじないじゃん」
私は抱腹絶倒で笑い転げていた。
夫は自分がこのブログに登場するのを楽しみにしている。自分が出てきた過去記事だけを読み直そうという魂胆である。二人しか住んでいない部屋で、とんでもない自分好きの暇人がもう一人いた。100%ナルシストで構成される世帯が、今ここに誕生していた。
「アッ!」
夫は思わずハッとするような声を上げた。
「ブログ内検索で『夫』って入れると、記事内に『夫』っていうワードが入ってるのだけが出てきたよ!」
夫はホクホクとして出てきた記事を読み進めていた。
「けっこうコメントが来てるねえ」
彼は最近「はてなブックマーク」というものの存在も知ったようだ。
このブログは「はてなブログ」というサービスを使っているのであるが、記事の終わりにあるこの「B!」の部分をタップすると、コメントが書けるし読めるのだ。
自分が出てきた回が好評だと、顔をほころばせて喜んでいる(読者の皆さんに感謝である)
だがすぐに顔を曇らせてこう言った。
「でもこれだと、ただちょっと『夫』って言葉が入ってるだけの記事も出てきちゃうなぁ…」
検索結果にご不満のようである。
二人暮らしも5年目。休日も朝から晩まで一緒に行動している我々は「お箸みたい」と言われる。お互い友達が少ないせいもあるが、それにしろ相手のことはよく知っているつもりである。
それでも謎は尽きることがない。
飲み会ではあんなに「脇役」を切望していた夫。
ブログではとことん主役になりたい男なのであった。
緑くん(リビングの置物)含め、この家には目立ちたがりが多いよね…
Sweet+++ tea time
ayako
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