子どもの頃、母にくっついてスーパーの食料品売り場にいくと、私と妹はしょっちゅう「お菓子」をおねだりしたものである。
「しょうがないなぁ、一人一つだけ選んできていいよ」と母から許可をもらうや否や、私たちは喜び勇んでお菓子売り場に駆けていった。ぬいぐるみやらキーホルダーやらプチおもちゃといった輝かんばかりの「おまけ」に、小袋に入ったラムネ菓子がくっついた「名ばかりお菓子」を選ぶために。
「食べるもの全然入ってないじゃない」と母に指摘されることを承知で、私も妹もおまけ集めに夢中だったのである。
話は変わるようであるが、先日、久しぶりに大ヒットの本に出会ってしまった。
宮田珠己さんの『そこらじゅうにて』という旅行エッセイである。
私は旅行記を書くのも読むのも大好きなんですが、ブログなのでインターネット上に書くわけで、いつもアレコレ考える。なんといっても文字がダラダラと続くと、スマホ画面上では読み続けるのがしんどいのだ。
だから写真を要所要所に入れたり、どうやったら面白く書けるのか試行錯誤している。
この『そこらじゅうにて』という文庫本は、全部で9章、250ページ近くあるが、とにかく文章でスルスル読めてしまうのだ。写真とかなくても、めちゃくちゃ面白い。紙の文庫本だからというのもあるけれど、もともとはWEB連載されていたものである。むしろ文字を追うのが心地よいくらいなのだ。
著者の不思議可愛いイラストがたくさん織り込まれているのもいい。
「重要で文化的な椅子」とかね。このくだりも良かった。ひとりで爆笑してしまった。
長崎、奈良、北陸、道南、奄美大島、山形、横浜、琵琶湖、山口。本の中で宮田珠己さんはこのあたりに行く。
観光ガイドブックをなぞるような旅行というより、もうちょっと個性的。着眼点がキュートな旅。
テーマは別になくて、海とか、お祭りとか、へんな岩とか、お寺とか、工場とか、産後の島とか、タコのすべり台とか、いい感じの湖とか、廃墟とか
日本全国のそういう「なんとなく心惹かれるもの」に向かってワクワクと出発するそれぞれのエッセイは、気張っていなくてめちゃくちゃに面白い。
がしかし、私は本編とは違うところに感動してしまった。
いっぱいあるけど二つだけ例を挙げてみよう。
一つ目は、奄美大島の海で遊び、食事をし、ヤシの木の下で男三人昼寝しているシーンである。
強い日差しが照りつけていても、木陰に入れば涼しい風が吹いていて心地よい。下校する小学生の声に起こされるまで、1時間以上も眠ってしまった。
「いいなあ、学生時代みたいで」
高野さんがしみじみと言った。
「しかも学生のときって、女の子に出会わないといけないみたいに思って焦ってるからしんどいけど、今はそういうのもなくて、ほんと気楽で楽しいよ」
おお!おお!
私は感動してしまった。男の人も「女の子に出会わないといけないみたいに思って焦ってる」んだ!?そういう驚きである。
女友達と会うとたいていこの出会いと恋愛についての話になるのであるが、男の人もそういうのあるのか。
そして何より嬉しいのが、「今はそういうのもなくなって、ほんと気楽で楽しいよ」である。
理想の異性に出会わないといけないとか、仕事にやりがいを持って輝かなきゃいけないとか、そういう諸々のプレッシャーからどうやら解放されていくらしいと知っていたら、年をとるのはちょっと「気楽で楽しい」部分もあるんじゃないか。
鏡を見て「シワができたッ!」とショックを受ける日々に、ちょっと救われちゃう一節である。
もう一つがこちら。
山形の羽黒山で、2446段の階段を上るシーンである。(頂上には神殿があるらしい)
階段は段差が小さく、2段飛ばし、3段飛ばしでどんどん上がっていける。助かったのは、道が上り一辺倒ではないことで、途中平らなところがあったり少し下る部分もあったりで、歩きやすい。
しばらくいくと、ポツンと一軒だけ茶屋があり、氷と書かれた暖簾が出ていた 。
ふと、なんだかスゴロクみたいだな、と思った。
五重塔で感動、5コマ進む。
茶屋でかき氷を食べる。1回休み。
ーみたいな。
私はこの「スゴロクみたいだな」の部分でウワァ!となってしまった。是れ、まさに人生なり。
私たちは人生コンスタントに進み続けなきゃいけない気分になってるけど、むしろ「5コマ飛びで進むたった一つの方法」みたいなのが溢れてる世の中だけど、2コマ進んだかと思えば3コマ戻り、1回休みも当然ある。だってスゴロクなんだから。茶屋でかき氷を食べても全然いいのである。
私たちは「上り一辺倒」じゃないといけない気分になっているけど、平らなところがあれば少し下る部分もあって、それって逆に「歩きやすい」ってことなんだ。
ハッとしてしまうような一言とか、生きていくのがラクになるようなちょっとした考え方とか。そういうものに突然ふっと気づいてしまう、まるで神様の落しものを拾うように。
それらは本編そのものではなく、まさに読書の「おまけ」みたいなものなんだけど、これが意外に楽しみだったりするのだ。スーパーのカゴに「おまけ」付きのお菓子を入れてもらった子ども時代と、一寸も変わらぬくらいに。
この文庫本は、そんな「おまけ」がたっぷり散りばめられている一冊でもある。
「なんか最近停滞してるな…」という人にも、ぜひ。自己啓発本が栄養ドリンクなら、エッセイや小説は漢方みたいにじわじわと効いてくる。
「おまけ」に救われたり、「神様の落しもの」に足を止めたりしながら、ゆっくり進む秋もいい。
1回休み、全然アリ。
3つ戻る、全然アリ。
落ち込んだり焦ったりする必要はなくて、サイコロを楽しい気分で振るだけなんだと、思っちゃったよね。
おまけ
本を二つセットで買うのが楽しい。
— ayako@Sweet tea time (@Sweettteatime) 2017年9月18日
著者も分野も違う本だけど、表紙の感じがなんとなくおそろい。並べて満足している…(読もう) pic.twitter.com/FYaKZZLxYa
このとおり、私はこの本を、表紙の見た目で買ってしまった。爽やかで優しくて、かわいいロバの絵。
そしたら「まえがき」に書いてあった。
あと文庫カバーに出てくるロバも本文と関係ない。
雰囲気である。
いいねえ、宮田珠己さん、いいねえ。
たくさん著書があるらしく、めちゃくちゃハッピーな2017年10月のはじまり。順番に読んでこう。旅行も好きだけど、読書はもっと好きかもしれない。
「読み終わってない本も、まだ山ほどあるのにね」
そういう心の内が聞こえてきそうな緑くんのセリフである。
Sweet+++ tea time
ayako
今日の一冊
ぜひぜひおすすめの一冊です。眠る前にぺらぺらめくって読み進めるのが楽しい。
『そこらじゅうにて 日本どこでも紀行』をAmazonで見てみる
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