3月20日は祝日だった。
夫は朝からジョギングをし、私はのんびり起床して家事を済ませた。
三連休の最終日だから遠出はしない。でも、天気は抜群にいい。今日はちょっと違うところでごはんを食べようという話になり、私たちは森下の商店街をいつもと反対側に歩いて行った。
歩いたことのない道だった。同じ街に3年住んでいても、家の直ぐ近くの道であっても、知らない場所はあるのだから不思議だ。
この日私が新しく見つけたもの。
初めて見るおしゃれなカフェ。木金土日がopen日らしい。木の窓枠に、褪せたモスグリーンのドアがかわいい。これは行かなきゃなぁ。
レトロかわいい美容室。ランプといいドアといい、美しいデザインにうっとりする。レンガやステンドグラス風の窓もかわいい。
さて、おしゃれな写真を二枚載せたが、現実に私たちが入ったのはここである。
グルメリーダーの夫が提案した、初めての店だった。
それがまた、すごく良いお店だったのだ。
店内は細長く、奥には小さな庭と座敷まであったから驚いた。私たちは手前のテーブル席に着いた。壁際には漫画がずらりと並んでいる。
80歳以上かなぁ、白髪でお団子を作ったおばあさんがおしぼりとお水を持ってきてくれた。昭和5年からある中華料理屋さんらしい。創業80年!
ドラマのなかだけで存在しているんじゃないかと思う下町らしいお店が、清澄白河や森下には本当に実在している。
「さて、何を頼もうかねぇ」
私たちは年季の入ったメニュー表を二人で覗き込んだ。新しいお店の注文はワクワクする。
基本の中華料理に加えて、カレーにオムライス、カツレツに親子丼、もうかなり自由なメニュー展開である。冷やし中華も年中やっているらしい。
私たちの隣のテーブルに座っている常連の若い男の人たちに、おばあさんが話しているのが聞こえた。
「最初は純粋な広東料理のお店だったんだけど、まぁねぇ、時代のなかでねぇ、いろいろ取り入れてきたのよ」
生き残ってきただけあり、お店はとても繁盛している。次から次へとお客さんが入ってきて、広くない店内はあっという間に満席になった。
最初に運ばれてきたビールがまた、かわいい。
グラスではなく小ジョッキ。なんだかミニチュアみたいだ。
「ayakoさんみたいなチビにはちょうどいいよ」そう言って、夫はグビグビと飲み始める。
ダイエット中だけど休日のビールは一杯までOKという甘いルールである。
しばらくして、熱々の料理が載ったお皿を、小学3、4年生くらいの女の子二人が代わる代わる持ってきてくれる。家の手伝いをしているのだろう。厨房ではおじいさん、おばあさん、お父さんと家族全員で作っている様子が見える。
味は最初に予想したとおり、すごく美味しかった。だいたい、お店の雰囲気で、ここは美味しいだろうなぁとかもしかして外れ?とか分かるから不思議だ。丁寧に作られた中華料理にビールで、私たちは満腹のほろ酔いで店を出た。
よく晴れた3月の昼下がり。光はすっかり春なのにまだ風は冷たい。新しく来た道を戻り、コインランドリーで洗濯物を回収して、スーパーマーケットで夕食の坦々鍋の材料を買い、私たちは家に帰った。
なんでもない休日の日記である。
たまには、新しい気持ちで、いつもと違う道を通ってみるのもいい。
見知った道ばかり通って、すべて分かったような気になるのは、私の良くない癖なのだから。きっと本当は、私の頭のなかの大雑把な地図には載っていない、無数の素敵な小道があって、どこを通っても同じところにたどり着く。
焦る必要は一ミリもなくて、その日選んだ道を、大事に歩ければいい。
めくるめく旅行も地味な休日も、どっちもたまらないよね。
Sweet+++ tea time
ayako